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 イベントに来場するお客さんは多かった。  祝日と合わせて三日間の連休だ。そのこともあってか家族連れも勿論たくさんいる。  花宮くんは、テントの下で子どもたちと握手をしたりハグをしたりしていた。私はその隣で風船を配り、保護者に向けて簡単な質問をしたりする。 「家づくりの、どこから始めればいいか分からなくて」 「大きな買い物ですから、慎重になりますよね。今スタッフに空きがございますので、よろしければご案内できますよ」  粗品を補充したり、お客さんの引継ぎをしたりと忙しく動いていた。テントの影だというのに暑く、それだけで体力をかなり消費していた。   私は机にある温度計を見た。35度だ。  私は子どもに別れの手を振った彼に言った。 「花宮くん」 「はい?」 「それ、もうやめよう。脱いできて」 「え、でもまだ開店1時間ですよ」 「このままじゃ花宮くんが熱中症になっちゃう」 「大丈夫ですよ、僕まだ元気です。それに、30分でちゃんと休憩しました」  トキランくんは両腕をムキッと上げて、パワーをアピールした。  しかし私は流されなかった。 「熱中症を甘く見ないで。中谷さんにも私から説明するから、今はとにかく脱いで」 「は、はい……そこまで言うなら。行ってきます」  トキランくんはモデルハウスに姿を消した。
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