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 雪の降る駅舎の中で、野次馬に囲まれながら、女の人が赤ん坊を産んだ。    赤ん坊はところどころ血に濡れ、全体的に青紫色のなりをしていた。どこからか駅員らしき人がほんのり湯気立つ大きなたらいを持って駆け付け、また別のおばさんが赤ん坊をたらいの湯の中に捧げた。赤ん坊が大きく口を開き、手足をばたつかせる。野次馬たちが手を取り飛び跳ね、歓声をあげた。ように見える。この映画には、音声が無い。  ただただスクリーンに映し出される映像だけを追っていく。  幼い女の子がふたり。姉妹だろうか。揃いのおかっぱ頭を寄せ合って、おはじきをして遊んでいた。丸眼鏡をかけた背の高い男の人がやってきて、それを嬉しそうに眺める。と、妹が、姉の手を叩いた。姉は泣きながら駆け出し、台所に立つ母らしき人の腰に飛びついた。お玉を置いたその人が振り返ってしゃがみ、姉の手を取り、まぁるく撫でる。  そこではたと気付いた。  あれは私だ。私とお母ちゃん。そして、お父ちゃんと、妹のタエ……。  私は食い入るように画面に見入る。もうぼんやりとしか思い出せなかった家族の顔が、目の前のスクリーンにははっきりと映し出されていた。  家の前で、これから出征する軍服姿のお父ちゃんを見送っている。坂沿いにある家の庭からは、長崎の街が見渡せた。私もタエも、目を輝かせて日の丸の旗を振る。お母ちゃんだけが、複雑な表情をしていた。    その理由が、今ならわかる。  私は思わずスクリーンに向かって手を伸ばす。行っちゃだめ。いや、行ったほうがよかったのか。  その後起こることを考え、私の手は力なく膝へと落ちた。
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