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   私は何をしているんだっけ――。あぁ、そうだ、家に帰るんだった。  だけど、ここはどこだろう。私はどうやらベッドの上に寝ているらしい。壁に飾られた葉書大のステンドグラスが窓から差し込む日の光を反射し、リノリウムの床にカラフルな線を作る。 「あ、角田さん起きましたぁ? 娘さんが面会にいらっしゃいましたよぉ」  大柄の女性が私の背に腕を入れ、慣れた手つきで私の体を起こした。 「お母さん」  大柄の女性と入れ替わりで、見知らぬ女性が私のベッドの傍らに座った。後ろでひっつめられた髪は乱れ、白髪が目立っている。 「私、家に帰るんですよ」  私は微笑んで見せた。 「……家、知ってます。……連れて行って、あげます」  よかった、家まで案内してくれるらしい。女性が私の手を握った。 「さちこ」  ごめんね。私の意思とは遠いところから、ふいに口をついて出た。女性がハッとした顔でこちらを見る。 「名前呼ばれたの、久しぶり……」  大きく見開かれた女性の目から、大粒の涙がこぼれた。  どうしてだろう。何か悲しいことでもあるのだろうか。ごめんなさい、ごめんなさいと泣くこの親切な女性に何か良いことがあるといいと、私は思った。  なかなか泣き止まない彼女の手の甲を、まぁるく撫でる。かつて誰かにそうされ、そうしていたみたいに。  いつまでもいつまでも、撫で続けた。 <了>
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