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ピロン。
軽い音が鳴った。
「あ、祐樹からよ。出ていい?」
俺がうなずくと、遥花は言った。
「テーブルの上に出して」
遥花の指示に手のひらぐらいの祐樹の姿がテーブルの上に現れた。すっかりおじいさんの姿だ。
「おばあちゃん、久しぶり。おじいちゃん、お帰りなさい。お疲れ様でした」
「久しぶり」
挨拶する祐樹のところにも遥花と俺の姿が小さく三次元で表示されているらしい。これは帰る直前に最近の通信形態として教えてもらった。
「今回、おじいちゃんが地球にいる間に一度、会いに行っていいかな。たぶん、次には会えないと思うんだ」
明るい調子だが、孫の祐樹もいい歳だ。平均寿命からいくと、確かに俺が次の仕事から帰った時には亡くなっているだろう。
地球からプロキシマ・ケンタウリまで片道四光年の旅。ウラシマ効果で光速宇宙船の中では八年だが、地球上では五十六年経つ。地球にいる知り合いはどんどん歳をとっていなくなってしまった。
遥花は冷凍睡眠で調節して、俺と同じだけ歳を取るようにしてくれている。
「わかった。明後日はどうかな? 何時でもいい」
「じゃあ、十時頃にお邪魔するよ」
映像が消えた。
「遥花、ごめんな。祐樹が可愛い時代もほとんど、冷凍睡眠していたから会えなかっただろう」
遥花が笑った。
「その代わり、立派な大人になって、長生きするところまで見ることができたじゃない」
「遥花」
俺は遥花を抱きしめる。
会えない時間が愛を育てると言うのなら、俺と遥花の愛は本当に大きく育ったようだ。
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