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2 つかの間の休息
「まったくやりきれんよな」西園寺渚隊長は作戦司令部からの帰り道、大声で愚痴を吐き出した。「出撃するたびに仲間を殺さにゃならんとはね」
今回の迎撃作戦もタキオン汚染による被害を出してしまった。デスクでふんぞり返っている上官殿たちはいたくご立腹で、技術部門は早急にミーム兵器の対策を講じるよう、檄を飛ばされた由。
出撃報告が終わり、(あくまで形式上にすぎない)休暇が出された。非常事態になれば即召集されるものの、当面は非番である。わたしたちはリラクゼーション・ルームで邀撃作戦を生き延びたことに乾杯した。
「連中がネオ・ジャパンに降って湧いてから3年だぜ。いつ終わるんだ、この悪夢は」
西園寺渚隊長はうわさでは、地球の日本国で明治の元勲を務めた西園寺公望の子孫であるそうだ。気品にあふれた目鼻立ちの整った顔に、腰まで伸ばしたつやのある黒髪、御年78歳と(アンチエイジングが実用化された昨今では)まだまだ女盛りである。見た目は20代後半となんら遜色はない。戦闘用に一部の器官を人工物に置換するほどネオ・ジャパン防衛に入れ込んでおり、自他ともに認める筋金入りの軍人だった。
わたしはといえば、徴兵されてなし崩しで防衛戦に参加する破目に陥ったタイプの典型的な雑兵なのだが、なんの因果か開戦当初から今日まで生き延びてしまい、すっかり隊長の腰巾着となって久しい。57歳が生まれたての小僧だと揶揄される現代とはいえ、やっぱりぶっ続けで参戦させられるのは堪える。何度も退役を申請しているものの、受理される見通しは立っていない。おそらくわたしが死ぬか、アンデッド部隊が降ってこなくなるまで受理されないのだろう。
「このままじゃいずれジリ貧に陥るのは目に見えてますね。敵の本拠地はおとなりの星なんでしょ、どうしてやっつけちゃわないんです」
「いままであらゆる試みがなされたの、知ってるだろ。核ミサイルもだめ、歩兵による殴り込みもだめ、ネオ・ジャパンの全電力を総動員した惑星破壊光線もだめ。お手上げさ」
おとなりの中国植民星がなにをやらかしたのか、判明している事実は驚くほど少ない。わかっているのは彼らがタキオン粒子を研究していたことと、それが制御を失って漏れ出したことだけだ。
タキオン粒子は超光速のため、因果関係を崩壊させる。体内に入ればエントロピーの減少を容易に惹起せしめ、死んだはずの肉体が復活することすらありうるし、現に起きている。それがいわゆるアンデッド部隊だ。彼らは惑星間の0.25天文単位という途方もない深淵を(絶えず死と復活をくり返しながら)生身で渡河し、われわれの星に降ってくる。これが中国植民星首脳部の意思なのかそうでないのかすらわからないのだ。
「それなら仕方ない、一緒にこの星からズラかりましょうや」
隊長は答えなかった。
「なんでそう故郷にこだわるんです。もっと住みやすい星はいくらでもあるでしょ」
「ほかでもない、この星があたしの故郷だからだよ」
「次の出撃で死ぬかもしれない」
「よそへ逃げたっていつかは汚染に追いつかれる。ここで誰かが食い止めなきゃなんないんだよ」
「ぼくたちである必要性がありますかね」
「ないと思うよ。たまたまあたしらがここにいた。それで納得できないか」
わたしは答える代わりに肩をすくめた。
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