1 成仏部隊

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1 成仏部隊

 毎度ながら、不死部隊(アンデッド・アーミー)の惑星強襲方法には恐れ入る。などというやりかたを考えつくのは彼らくらいのものだろう。 「敵部隊の降下を確認」西園寺(さいおんじ)隊長から通信が入る。「総員臨戦態勢。なんとしても迎撃しろ」  武装を長射程電磁銃(レールガン)に切り替え、オートモードにセット。アクティヴ・レーダーで正確に敵の位置を絞り込み、降下速度を計算して未来位置に射撃する優れものだ。最大射程15,000メートル、有効射程はその80%。われわれ成仏部隊に支給されているP A A(パワー・アシスト・アーマー)のなかでもてきめんに強力な武装である。 〈有効射程圏内に敵が侵入しました。射撃許可フェイズにサインインしてください〉  アシストAI〈オラクル〉のアナウンスにしたがい、H U D(ヘッド・アップ・ディスプレイ)上に表示されたポイントを瞳孔でマーク。瞬時にパターンが照合され、サインインが完了した。  許可が下されるや否や、右腕に内蔵された超伝導磁石が液体ヘリウムによって冷却され、弾丸が秒速15キロメートルで射出された。カメラが望遠モードに自動で切り替わり、命中の瞬間を鮮明に捉える。はるか上空で敵が爆散したのが確認できた。  成仏部隊による対空射撃の雨嵐にもめげず、撃ち漏らされた少数が地面にいっさいの減速なしで激突した。今回の降下地点は廃墟と化したかつての主要都市であるネオ・ギフ・プレフだ。防衛対象からははずれているものの、ここはわたしの故郷でもある。アンデッド野郎どもは一匹たりとも生きて帰すつもりはなかった。 「総員散開。復活(リザレクション)の始まる前に駆除しろ」  PAAは筋電位増幅による超人的な身体能力を着用者に付与する。肩部に半径50キロメートルまで探索可能な高性能アクティヴ・レーダーを具備、右腕には戦況に応じて切り替え可能の多用途火器(フレキシブル・ファイヤーアーム)、両手には繊細な作業から格闘戦までこなせるマニュピレータ、おまけに足の裏にはベアリング・ローラーが付属し、(整地に限られるけれども)縦横無尽に戦場を駆け抜けられる。 「アンデッド発見。すでに復活してます!」悲鳴混じりの報告。「座標P、救援を乞う」  座標Pを音声入力し、移動は〈オラクル〉の自動制御に任せる(身体が乗っ取られたような奇妙さは何度体験してもぞっとしない)。現場に到着すると、すでに味方機がよってたかってアンデッド野郎をいじめていた。4機のPAAが扇状に展開し、容赦なくマシンガンを浴びせている。 「撃ちかたやめ」そのうちの1機は西園寺隊長だったようだ。「距離を離せ。対ミーム兵器シールドを展開しろ」  ボロ雑巾のようになった人間のなれの果てが、硝煙のなかから蜃気楼のごとく現れた。まさに全身これ蜂の巣といったあんばいで、足をひきずりながらなおも前進してくる。その傷がみるみるふさがっていくのには毎度のことながら、心胆を寒からしめられる。だが驚くにはあたらないのだろう。なにせ高高度から大気圏を生身で降下してくるような連中なのだ。 「総員退避。高出力レーザー砲(コヒーレント・レーザー・カノン)で仕留める」  西園寺隊長の予告後、0.7秒後に彼女は例のブツをぶっ放した。PAAの動力は小型核融合炉だが、これを撃つと重水素確保のため充電状態(チャージング)に移行してしまう。慎重な隊長らしくない選択だった。  照射付近が白熱した閃光に包まれ、直後に惑星全土を揺るがす大爆発が起きた。同時にヴァイザが自動的に偏向モードへ遷移、失明を未然に防いでくれた。 「ミーム兵器の拡散兆候なし。座標Pの正常化を宣言します」副隊長格はわたしだったので、全員へメッセージを送った。「総員すみやかに座標Gへ移動し、敵を撃破してください」  ローラーダッシュで颯爽と駆け抜けていく隊員たちを尻目に、西園寺隊長機のもとへ急いだ。「動けますか?」 「無理そうだ。補給を頼む」  双方の燃料ハッチを開き、コネクタを露出させる。バックパックから補給パイプを取り出して接続、重水素の供給を開始。 「日下部副隊長、座標Gに敵が集結してます!」隊員の悲鳴が耳をつんざく。「至急増援を――」  報告が途切れた。「(なぎさ)さん、どう思います」 「十中八九やられたな。ミーム・シールドなんざクソの役にも立ちゃしねえ」  対ミーム兵器シールドはタキオン汚染を防ぐ唯一の防御装置とされているけれども、なにぶんタキオン汚染自体がいまだに未解明の現象なのだ。気休めにもならない。 「とにかく急ぎましょう」補給パイプを引っこ抜いた。 〈補給は完了していません。対象の稼働率は――〉  AIの警告を無視し、座標Gへ急行する。隊長の不吉な予言通り、3人の隊員たちは一人残らずアンデッド化しているらしく、呼びかけても返事がない。不自然に左右に揺れながらこっちへ近づいてくる。  相対距離が5メートルのあたりでほぼ同時に、3人のPAAが真っ二つに割れた。〈オラクル〉が内部の人間を医学的に死亡したと判断したため、パージフェイズへ移行したのだ。  彼らの身体は生まれたての赤ん坊みたくすべすべで、傷ひとつついていない。頭髪が不自然に長く伸び、目は燃えるように輝いている。アンデッドの呼称とは対照的に、彼らからは生気がみなぎっていた。細胞のヘイフリック限界が汚染により制限を突破し、テロメラーゼ酵素が湯水のように体内を駆け巡っているのだ。 「タキオン汚染が進んでる。放っておけばあたしらもヤバいな」隊長の声は苦渋に満ちていた。「日下部、撃てるか?」  この問いにはふたつの意味が込められているのだろう。①PAAのエネルギー残量的に可能かどうかと、②さっきまで仲間だった連中をちり芥も残さず消滅させられるか。①はクリアしている。問題は②だ。だが四の五の言っていられない。  わたしは覚醒剤アンプルCの投与を〈オラクル〉に命じた。緊急事態時のみの推奨がどうたら言う警告を途中でさえぎり、瞳孔確認で使用を許可。チクリとした痛みを感じたのと同時に、目の前の兵士たちに身の毛のよだつような憎悪が湧いてきた。  わたしは高出力レーザー砲を照射した。
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