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攻め視点
目覚めると、腕の中にイルがいた。顔は見えないが、穏やかな寝息を立てて俺の胸に顔を埋めている。
なぜイルを抱きしめて眠っているのだろう。……コレは夢か。
夢ならばもう少し堪能させてもらおう。愛おしい存在をキツく抱きしめて、髪に口付けを落とした。
んっ、と鼻にかかった声を出し、イルが身じろぐ。起きるのか、と思い、腕の力を緩めた。
まつ毛が震える。ゆっくりと大きな薄緑色の瞳を覗かせた。俺と視線が絡むと目をパチパチと瞬かせて、喜色満面の笑みを浮かべる。
「おはようございます、アランさん」
「ああ、おはよう」
「アランさんと一緒に眠れるなんて幸せでした」
顔を染めて擦り寄るイルの髪が首をくすぐる。
その感触に疑問が浮かぶ。この温もりや抱き心地に至ってまで本当に夢なのか、と。
布団の中で脇腹をつねってみた。痛い! ……夢ではない?!
飛び起きてイルと距離を取る。
「アランさん、どうかしましたか?」
イルが起き上がって、心配そうな目を携えて首を傾ける。服を着ている事に安堵の息を吐いた。
「なぜ、イルが隣で寝ているんだ?」
「覚えてないんですか?」
「すまない。イルと話しながら酒を飲んでいたところまでは覚えている」
「そうですか……。俺、(キス)初めてだったのに」
視線を落として目元が憂いを帯びる。
初めてって何が? まさか本当にやらかしたのか?
「でも、いいです。アランさんは覚えてなくても、俺は一生忘れません」
無理矢理笑顔を作ってこちらに向ける健気さに胸が痛くなる。
今まで大事にしてきたつもりだ。どんなにイルから言葉や態度でしめされても、成人するまでは、と理性で押さえつけていた。それが酒でたがが外れて覚えてすらいないなんて最低だ。
冷や汗が全身から吹き出すが、きちんと事実を確認しなければ。
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