攻め視点

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 酒場に行くと朝から騒がしい。ギルドの面々が集まっていると静かな時間なんてない。  空いている席に座り、朝食を頼む。料理を待っていると隣にオリヴァーさんが腰掛けた。 「アラン、酒は飲んだか?」 「はい、ごちそうさまでした」 「どうだ? 美味かったろ?」 「はい、美味しかったのですが、飲み切れなかったものはお返しします」  ボトルを渡す。 「そんなに飲んでないな」 「あまり強くないので。それに、俺は二度と酒は飲みません」  宣言すると、目を見張ったあと、ニヤニヤといやらしい笑みを向けてくる。 「どうした? 何かあったのか? おっさんにちょっと言ってみろ!」 「……言いません」  この人に言ったら今日中にギルドの全員に知れ渡る事になる。 「オリヴァーさん、質問があります」  俺の向かいに座っているイルが手を上げた。嫌な予感しかしない。 「何だ、言ってみろ」 「キスの先って何ですか?」  周りにいた全員が一斉に噴き出した。顔やらテーブルやらを慌てて拭いている。 「よし、俺の部屋に来い。教えてやる!」 「本当ですか! やったー!」  オリヴァーさんは席を立ち、両手を上げて喜ぶイルの肩を組んだ。俺も立ち上がり、イルに触れる手を掴む。 「おい、おっさん!」 「どうしたアラン? 口調も人相もおかしな事になってるぞ。色男が台無しだ」  殺気を込めても余裕の笑みを向けられる。肩にある手だけは下ろさせた。 「イル、そういう事は好きな相手にしか聞いてはダメだ」 「じゃあ、アランさんにしか聞いちゃダメって事ですか? でも、アランさん教えてくれなかったですよね?」  イルは頬を膨らませて唇を突き出した。周りも囃し立ててくる。  大事にしたいのに、そんな事を言われてどうしてくれようか。 「アランさん、教えてくれますか?」  上目遣いで不安そうに首を傾けられる。目の前の据え膳の腕を掴んだ。 「代金は払うから、2人分誰か食べてくれ」  机の上に紙幣を置き、イルの腕を引いたまま酒場を後にした。  これで今日中にはギルド全員に知れ渡るのだろう。 「アランさん、どこに行くんですか?」 「俺の部屋」  早足で歩く俺に、イルは小走りでついてくる。  部屋に着き、イルを横抱きにしてそっとベッドに横たえた。上の服を脱ぎ捨てイルに跨る。両手を顔の横について見下ろした。髪が垂れて俺とイルを2人だけの世界に誘う。 「今からする事、嫌だったら殴って止めてくれ」 「アランさんにされて嫌な事なんてありません」  イルの手が伸びて、俺の頬に触れた。俺が口元を緩めれば、イルは頬骨を上げて微笑む。 「アランさん、俺にキスの先を教えてください」
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