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8年前、俺が8歳の時にアランさんに出会った。
7歳の時に親が事故で亡くなり、孤児になった。貧しい村だったが、村のみんなは俺を育ててくれた。村のみんなが家族だと思っていた。
1年後、俺は奴隷商人に売られた。金の髪と薄緑色の瞳で、痩せっぽっちの子供なのに相場より高かったらしい。人間の相場なんて知りたくもないが。
今なら村も限界だったのだと理解できる。でも8歳の俺は裏切られた気持ちでいっぱいだった。
逃げられないように手足を縛られ、馬の引く荷馬車で首都まで運ばれる予定だったが、魔物に襲われた。
雇われた護衛が剣で応戦するが、次々に魔物の爪の餌食になる。剣と爪のぶつかる甲高い音と悲鳴。血液の臭いに意識を飛ばしかけた。
逃げなきゃ殺される。意識を手放さずに済んだのはそう思えたから。でも、逃げようにも手足は拘束されている。
『ドスッ』と鈍い音を鳴らし、折れた剣が荷馬車に突き刺さった。急いで手のロープを刃に擦り付けた。手が自由になり、次は足のロープを切ろうとした時に、大きな影が掛かった。反射的に上を向く。大きな魔物が牙を剥き出しにして、俺の頭なんてすっぽり入ってしまうほど口を開いた。
食べられる、と咄嗟に体を丸くして目を閉じた。
『ザシュッ』と肉の切れる音が響く。頭上から生暖かい血液が雨のように降り注いだ。
「怪我はないか?」
耳に心地良い声の方へ目を向けた。
銀の髪に空色の瞳をした綺麗な人が立っていた。当時18歳のアランさんは声を聞かなければ性別が分からないような中性的な人だった。
俺の足に巻かれたロープを切ってくれた。アランさんはロープで擦れた手足に眉を顰める。
「立てるか?」
手を差し出されるが、今頃になって震えが止まらなくなった。恐怖から解放されて安心して大声で泣いた。
「君が無事で良かった」
抱きしめられた温もりで更に涙が止まらなかった。抱えられて目を閉じるように言われた。惨状を見せない為だ。
しばらく歩くと川辺に着く。体と服を洗い、手足の手当てをしてくれた。服は風の魔法ですぐに乾いた。
俺には首輪が巻かれている。『商品』である証のタグを付けるために。首輪が切られると炎に包まれた。灰も残さずに一瞬で溶ける。
「君は奴隷ではない。故郷まで送ろう」
俺に帰る場所なんてない。首を横に振る。
「……では、俺と来るか?」
手が差し出される。俺は迷わず重ねた。
「俺はアラン」
「イルです」
その日からアランさんが生きる術を教えてくれた。魔法は全く使えないけど、剣の腕はアランさんも目を見張るほどに成長した。
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