入校のご案内

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 この間だってどこかのドラゴンを退治したとかで、パーティのみんながツァイトスタッド王国の英雄と紹介されている記事を見たぞ。そのパーティのリーダーともあれば今やあらゆるクエストに引っ張りだこのはずだろうに。 「手紙をもらってすぐにウチのギルドの面々に声かけてよ、つってもほとんど全員が免許持ってたけど」 「そりゃそうだろ。冒険者ギルドに魔法免許を持たないで入る方がおかしい」 「だからギルドの連中の子供らに声をかけておいた。みんな免許を取れる年齢になったらここを使うように言っといたからな」 「そ、それは助かる」 「けどせめて一人くらいは連れてこねえと思ってな、今日は俺の姪っこを連れてきたぜ。すぐに呼んでくる!」  と、本当に俺が在籍しているかどうか確かめたグレーターは外にその姪っことやらを呼びに行った。  …ん? グレーターの姪っこって確か。天才治癒術師として今をときめくカリアトス・トームじゃなかったっけ? 以前、一緒に新聞に載っているのを見た気がする。そんな有名人がウチの学校に…。  そうして空いた俺の前を今度はテンポラが陣取り、俺の手を取って語りかけてきた。相変わらず熱い奴だな。 「お久しぶりです、先輩!」 「あ…ああ。元気そうで何よりだ」 「はい!」 「察するにお前も誰かを?」 「もちろんです。全員に確認したところ兵団もやはりほとんどが免許は持っておりましたので、先程の方と同じように兵団員の子供らへ通達をお願いしました」 「あ、ありがとう。けど全員に伝えるのは大変だったんじゃ?」 「なんてことありません、先輩から頂いた恩を思えば。それに…あれから僕も出世しまして兵団長を任せられておりますので」 「はえ!?」  へ、兵団長!?  簡単に言ってくれているが、とんでもないことだぞ。千人からいる組織の団長だなんて。いくら形骸化された訓練ばかりの団体とはいえ、彼らをまとめ上げるためには人望もさることながら自身の武術の腕前だって必要なはず。それをこの若さで…。  修道院兵団に在籍中、幾度となく剣を教えてやった事はある。あの兵団にあってかなり剣技の素質を持っている奴だとは思っていたけど、まさかここまで伸し上がるとは。 「先輩から教えてもらった剣を忘れずに修練しておりました」 「そ、そっか」 「はい! それで方々に声をかけましたところ大司教補佐官であらせられるカウン・ターポスト殿の妹君が是非こちらで学びたいと」 「大司教補佐官の妹!!??」  ナイケヴィオス教は場合によっては一国家以上の権力を発揮する場合もある。その教団の長たる大司教の補佐官を勤めているということは、一国の大臣と同等のレベルの人だと思って差し支えない。  そんな方の妹が…っていうかその人ってノワール様じゃん!  信仰心と才能が評価され、ナイケヴィオス教の重大な儀礼祭の一つである復活祭の開催時、聖墓に入ることの許された数少ない神官。神官は現代において両の手で数えられる程しかいないと聞いたぞ。  パクパクと口を動かすことしかできない俺を置いてきぼりにして、テンポラは外で待っているであろう大司教補佐官の妹君、ノワール様を迎えに行った。  最後に重厚で厳かなオーラを欲しいままにするメサク殿が歩み寄ってきた。 「息災か?」 「え、ええ。お陰さまで」 「そうか。ならば…良い」  何かを言いたげな様子だったが、今それを言及できるはずもない。 「メサク殿もどなたかを?」 「うむ。儂もせめてもの罪滅ぼしにあちこち声をかけた。丁度儂の同輩の孫世代がそろそろ免許を取ろうかという頃合いでな。ここを強く推薦しておいた」 「き、恐縮です」 「ただ…」 「ただ?」 「儂が急にこのようなことをして王宮内は少し話題になってな」  そりゃそうだ。メサク殿は王宮騎士団にこの人ありと言われるほどの生ける伝説だ。そんな人が一介の魔導者学校の宣伝をし始めたら良くも悪くも話題に上がって当然だろう。 「儂の予想以上に王宮内に噂が広まってしまった。そうしたところ…さるお方がどうしてもこの魔導者学校に通うと言ってきかなくてな」 「へ? さるお方とは?」  これほどまでの傑物が濁し、言い淀んでいる事に違和感を覚える。詳しく聞こうと思った矢先、答えの方からお越しあそばされた。 「私です」  大きくもないのに地の果てまで響く鐘のような声。姿を見ずとも高貴なオーラを感じ取った。思わず目をやれば、そこには絵画の中から現れたと言っても信じてしまうほどの美少女がいた。  身に纏っている衣からして庶民とは思えない。  俺だけでなく魔導者学校の全員が目を奪われていた。  そしてメサク殿がその美少女の名を口にする。 「紹介いたします。こちらのクオーツ魔導者学校への入校を強く希望されておられるのが、ツァイトスタッド王国の第一王女であらせられるリーヴェ・リオン様です」 「リーヴェです。皆様方、よろしくご指導ご鞭撻を賜りますように」  …え。  っええぇぇぇぇえぇえええぇえぇえぇぇぇえ!!!??!?
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