入校のご案内

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「まずは数ある魔導者学校の中から当校を選んで入学して頂きましてありがとうございます。これから当校のルールと皆さんが魔法免許を取得するまでの流れを簡単に説明します。入校受付で渡していた資料を見てください」  そういうと四人の視線が卓上の資料に落ちた。  魔導者学校は多少の違いはあれど、往々にしてこの入校式という説明会からスタートする。  一番最初の授業はこの入校式を経て、次に『適性検査』と『先行学科1番』を受けるのが基本だ。  適性検査というのは簡単なペーパーテストを行い、その結果如何によって魔法を扱う上での適性度を測るためのもの。名前の通りだな。その目的は大きく分けて二つ。一つは得意な魔法属性の確認、もう一つは魔法行使に対する速さや正確さ、癖や統計的な魔導傾向などの自分では気がつきにくい要素を客観的な視点で確認することにある。指導員はこれを踏まえて安全な魔法行使を指導すると言う訳だ。  続いて受けてもらう先行学科1番とはその名の通り、学科と実技を含めて全ての教習の前に受けなければならない講義だ。  簡単に言えば、魔導者としての責任とモラル、酒気帯び魔導の禁止、魔法令の遵守、魔導行使に必要な準備などを学ぶ。全部が当たり前の事じゃないかと思う子も多いけれど、悲しいかな当たり前の事ができない輩や当たり前を知らない人間も一定数いるのだ。  因みにこの先行学科の1番を受けないと他の教習が受けられないというのは、王宮の定めた統一規定でもある。 「ここまでは大丈夫でしょうか? 因みにスケジュールの都合が悪ければ先行学科の1番は後日改めて受けられるけれど、今日の四人は大丈夫かな?」  そう聞いてみても特に反応がない。ならば全員がこの後に先行学科の1番を受けるということだな。 「では、その二つを受けたという体で次にどうやって教習を進めていくかを確認します」  現代の魔導者学校の教習は『第一段階』と『第二段階』の二つに大別して行う。第一段階が教習所内の施設を使って魔法の教習を行い、それを経て第二段階に上がると実際のフィールドやダンジョンの中で教習を行うというものだ。  この流れに例外はなく、初めて免許を取得する者は誰であれこの段階を踏んで魔法の研鑽を積む。  なのでこの四人も第一段階からスタートしていくという事になる。  更に第一段階の教習を分別すると『技能教習』と『学科教習』の二つに区別される。技能教習により実践的な魔法を、学科教習の座学により魔法律や知識を身に付けて文武共に理解を深めてもらう。  技能教習は第一段階においては、MTならば最低15時間、ATならば最低12時間の教習を行う決まりになっている。教習の順番毎に課題は決まっており、それが万が一クリアできなかったり、あるいは俺達指導員がもう少し練習が必要だと判断した場合は追加で一、二時間ほど教習が増える場合もある。なので順調に教習が進んだと仮定した最低時限数を伝えた。  対して学科教習は全部で10時間の授業がある。これには先行学科1番も含まれているので、この後にそれを受けるのであれば残りは9つということになる。  付け加えると途中のどこかで『仮効果測定』というものも受けなければならない。これは簡単にいうと本免許試験を想定した模擬試験で、ウチの場合は合格するまで受けなければならないという決まりになっていた。  技能教習を規定時間すべて受ける、学科教習を全部受ける、仮効果測定に合格する。  この三つのプロセスを踏むと、最後に『みきわめ』という教習を受ける権利が与えられる。  みきわめとはその名の通り、第一段階で学んだ事をキチンと理解し、また実践できるかどうかを判断する。そしてそれに良好を貰えると『終了検定』というテストを受ける事が可能になる。  実技と筆記試験の二つからなり、これに合格すると「仮免許」というものを発行する。  やはりこれも名前の通り仮の魔法免許証に当たるもので、これがあると教習所の外に出て魔法の教習を行うことができるようになるという代物だ。先程の話に少し戻れば、つまりは第二段階に上がるということと同意義だと思ってくれて差し支えない。 「ここまでが第一段階の簡単な説明です。で、第二段階に上がってからの話ですが、その段階になったら改めて説明の場を設けますね」  流石に第二段階までの説明をしてしまうと時間が足りない。それに今日初めて魔導者学校に来たばかりの子達にあれこれと説明したって覚えきれるはずもない。加えて言えば所内か所外の差はあれど、基本的にやることは同じだ。  技能、学科にプラスして本効果測定が必要だが、これは仮効果測定が名前を変えただけに過ぎない。  そうして同じように最後にみきわめを行い、それに良好を貰えれば『卒業検定』の受験資格を得ることができる。その卒業検定に合格すれば、晴れて魔導者学校は卒業だ。後は有効期限内に自分のタイミングで魔導者免許ギルドに出向き本免許試験という名のペーパーテストを受ける。それにも合格すると一人前の魔導者として免許が交付されるというのが具体的な流れだ。 「免許取得までの流れを簡単に説明しましたが…何かこの時点で質問はありますか?」  シーン…。  質問がないから安心していたけど、ただ単に反応がないだけじゃないのか、コレ。せめて分かったくらいの返事はほしいけれど、誰も返事どころか顔すら動かさない。  あえてオッサン染みたことを言うが、これも時代というやつだろうか。 「…質問がないようなので、最後に当校のルールについて軽く触れて終わりにします」  ウチの学校は学科、技能共に完全予約制だ。  学科は時間割が予め一ヶ月単位で決まっているので、都合のよい時間を見計らって受け付けに予約して貰えればいい。  ついで技能教習だが、これも受付に直で予約をしてもらう他、カウンターに設置してある予約表に自分の教習生番号を書き込んで予約するという二パターンの方法がある。この予約を当日にキャンセルしたり、もしくは無断で休んでしまうと一時間につき一律1,000モンスのキャンセル料金が発生してしまう。  なので予約をした後のスケジュール管理は気を付けてね、という旨の説明をすると丁度よい時間となった。 「まず皆さんは入校したてで何が分からないのかが分からないかと思います。この先必ず、分からない言葉や忘れてしまう事が出てくるかとは思いますが、そうなったらすぐにその疑問を解決するように。分からない事があるのにどんどんと進んでいくというのが1番怖いですから。そこだけは徹底してください」  と喚起したところ、一人だけ返事を返してきてくれた。良かった、きっとみんな照れ屋さんなんだ。きっとそうに違いない。 「では、以上で入校式を終わります。そして説明した通り、このままの適性検査を受けてもらいます。用紙と鉛筆を配るので……」  こうして俺はつつがなく入校式を済ませると、続いて適性検査を始めたのだった。
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