プロジェクト・クリオ

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プロジェクト・クリオ

 巨大隕石に対する、宇宙空間上での迎撃計画は早々に取り下げられた。  直径十五キロを超える隕石を破壊することは物理的に難しい。それほどの質量のある兵器を地球への影響がないほど離れた地点へ、運搬する手段がないからだ。  隕石に対してロケットをぶつけ、進路を変更させることについても、各国機関が検討したが、同様の理由で実現は不可能と判断された。  そのため人類は隕石が衝突することを前提とした、避難計画を立ち上げられた。  大小含めて千を超える計画。民間企業が企画したものから複数国家に及ぶ大規模なものまで、あらゆる手段が立案された。  代表的なものとしては、インド政府を中心に、中央アジア諸国が携わった国際地底都市アガルタ計画と、ASEANが立案した、巨大な人口島を作り、移住をする人工大陸構想。中露によるスペースコロニー、そして米国を中心とした月面基地計画、などがあった。  しかしいずれも、失敗に終わった。  隕石の大きさが当初想定された直径十五キロではなく、実際には二十キロであったため、隕石による衝撃、津波の大きさ、そして寒冷化による被害は深刻なものとなった。  大西洋に面した北アフリカの都市、カサブランカ付近に衝突した隕石により周囲数百キロは即座に蒸発した。その爆発はヨーロッパ西部、イベリア半島にまで及んだ。  そして即座に千メートルを超える巨大津波が発生し、ユーラシア大陸、アメリカ大陸などの諸都市を押し流した。  その津波は大西洋、太平洋問わず流れ込み、インドネシア周辺で建設していた人工大陸は海の中に沈んだ。    巻き上げられた粉塵は、長期にわたる地球の寒冷化を招いた。これによりアガルタの地上部分は雪に覆われたため、空気や水の循環装置の動作が困難となったため、一年も保たずに施設は崩壊した。   スペースコロニーや月面基地については当初は問題なく運用できた。しかし宇宙空間という極限状態では、発電機、生命維持装置など、生きていくために必要な装置の維持は困難だった。これらの機器の部品は地球でないと製造できない。そのため機械の寿命が、そのまま住人の寿命であった。  スペースコロニーも月面基地も、いずれも十年後を目処に地球に帰還するという計画であった。それ以上時間が経てば、応急処置ではどうにもならないという、止むに止まれぬ事情があった。  隕石による寒冷化は三十年におよんだ。隕石衝突前に整備された地球上の宇宙港はいずれも津波による被害と降雪により、利用できない状態のまま放置された。  スペースコロニー、月面基地とも、最後の住人が息絶えるまで、二十年もかからなかった。  人類が行った全ての計画は、ただ一つを除いて失敗に終わった。  そのただ一つの計画は、人類の生存と全く関係がなかった。成功しても失敗しても、人類の存亡には影響を及ぼさない。だがロケット打ち上げが可能な国、その全てが賛同し協力した。  プロジェクト・クリオ。  人類の叡智をAIに託し、その歴史を宇宙に残す計画だ。
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