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夕子、独白
「朝美!」
雑踏の中で倒れた朝美に、夕子は駆け寄る。うなされるようにうわ言を呟く彼女の、視線は虚空を見ている。
「大丈夫か?」
目の前のたこ焼き屋の店主が、声をかけてきた。大丈夫と答えて夕子は朝美の腕を持つと、支えながら「朝美」と呼びかける。
以前にもこんなことがあった。朝美は突然、何が何だかわからなくなり、混乱したまま倒れる。その度に夕子は朝美を介抱し、彼女を助けた。
ぐったりと項垂れた朝美の肩をもち、人混みを避けて歩く。
人が多いところはまずい。朝美には情報負荷が大きすぎる。人のいない落ち着ける所に行かなければならない。
夕子は人の行き交う参道を曲がり、細い小道へと入る。灯りも人通りも少ない道を通る。
まっすぐ行けば神社の裏手の広場に行き着く。
神社の表は祭りで多くの人がたむろしているが、その裏となると休憩用のベンチと、申し訳程度に付けられた電灯があるだけ。そこならゆっくりできる。
「まったく、世話のかかる妹ね。まあ慣れているからいいけど」
そして夕子は自虐的に笑みを浮かべた。
「でもきっと、これが最後だからね?」
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