人類最後の願い

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人類最後の願い

 隕石の衝突が確定した時、人々は生きるために抗った。その一方で、もし人類が滅亡しても、その生きた証が残るよう努力した。  そこで紙や長期保存用のディスクを使って人類の歴史、文化、技術、あらゆる知見を記録し、保存を行うという計画が、各地で立案された。  しかし地上に保存していては、隕石衝突の影響で破壊される可能性があった。また仮に人類が絶滅してしまえば、それらのデータを参照できなくなってしまう。  プロジェクト・クリオはそれらの懸念に応えるため、考案された計画だった。  この計画はAIを活用して、人類の知識を伝えるというものだった。  プロジェクト・クリオは、まず人間が経験した情報を可能な限り搭載したAIを用意し、人工衛星に組み込んで外宇宙に打ち上げる。そして遠く、地球を離れた宙へと飛ばす。  もしこれを見つける者がいれば、その者の言語に合わせてAIが情報を伝える。  この計画の肝は、伝える相手が必ずしも人類である必要がないということだ。高速で飛翔する人工衛星を、手に入れるほどの技術がある生物であれば、きっと人類が成し得た知見を受け取ってくれる。それがこの計画の目的だった。  そしてAIであれば、相手がどのような文明であろうと、伝わるよう善処するだろう。  宇宙にいれば、隕石の被害から免れる。AIであれば人類の代わりに人類のことを伝えられる。  もし人間が絶滅したとしても、人類の歩みを宇宙に残したい。  人類がたどり着けた知識を、後世に託したい。    この計画には、人類最後の願いが込められていた。
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