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②
カフェのドアを開けると、チリンとドアチャイム。
若い店員の水野恵が、テーブルを拭いている所だった。
「水野さん、お客さんだ」
ショートボブの細身に、エプロンとバンダナ姿の恵は、こちらに向いてニコリとして頭を下げる。
「まあ、座ってくれ」
俺たちはテーブル席に座る。
「こぢんまりとしていいお店ね」
ひとみちゃんが、周りを見渡した。
「お! ヨット部品も売ってんのか」
「ああ。地元のヨット乗りを相手に、ヨット部品を売ることもしているんだ」
「ということは、まだやってんだな。ヨット」
「いや、ヨットは、海洋系の高校で教えたぐらいで、もう乗ってないよ」
「そっか、そういやお前、学校の先生やってたんだな。60で定年したのか」
「ああ、で、今はここをやってる」
「タバコいいか?」
海藤がポケットからタバコとライターをテーブルに置いた。
相変わらずのヘビースモーカーか。
俺は、カウンターに向かって
「おーい! 水野さん。お客様がタバコはいいかって聞いてますよ」
恵が、小走りでやって来て手に持ったタブレットを操作した。タブレットから女性の音声が流れる。
【お客様、申し訳ありませんが、店内は禁煙となっております。お飲み物を美味しく召し上がっていただきたいので、ご理解ください】
恵は深々と頭を下げる。
「ああ、そう。はい、わかりました」
頭を掻く海藤。恵は、カウンターに戻って行った。
「てなことで、店内禁煙だ」
「っていうか、あの子、何でタブレットを使うの」
ひとみちゃんが訝しむ。
恵が、水を運んで来た。3人分のコップを置くと、再びタブレットを操作する。
【ご注文をお伺いします】
タブレット音声で、御用聞きだ。
「あ、じゃあ俺は、ホットコーヒー」
「私は、レモンティー。ホットで」
「水野さん、先生は熱いお茶でいいや」
注文をタブレットに入力し終わった恵は、画面をタップした。
【かしこまりました。少々お待ちください】
微笑んで会釈。カウンターに引き上げて行った。
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