1話:引きこもって小説書いてるので、邪魔しないでくださいまし。

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1話:引きこもって小説書いてるので、邪魔しないでくださいまし。

「サルビア、サルビア!いい加減出てきなさい!」 ドンドンという殴るようなノックと共に、お父様が私の名前を呼ぶ声が聞こえる。 当然だ、縁談の話し合いの途中で啖呵を切り、堂々と抜け出して、自分の部屋に燭台で鍵をかけ、閉じこもっているのだから。 そんな状況でも、私は扉の方へは一切目を向けず、 机の上で紙にペンを走らせながら大声で返事をする。 「ですから、私は結婚なんて絶対に嫌です! それもあのプランテス様の子息だなんて!」 それを聞いた扉の向こうにいるお父様は先ほどよりもさらに大きな声を出して私に声をかける。 「何をいう!幼い頃から仲良くしていただろう!?何が不満なんだ?」 「だから嫌なのです。 家柄もお金もありますが、人間性に問題が…」 「なんてことを言うのだ!昔から贔屓にしてくださってる伯爵家の令息だぞ! そんなわがままばかり言っていたら、行き遅れるぞ!」 「上等ですわ!私に困ることはないですもの。」 「何!?」 「どうしても早く結婚してほしいと言うのであれば、プランテス様以外のもっとマシな縁談を持ってきてくださいまし!」 お父様は私の発言と態度が気に入らなかったのだろう 「なんだと!?何十件も縁談蹴ってきたのはどこの誰だ!」 その直後、扉を怒りに任せて殴ったのだろう さっきまでとは比にならない『ドンッ』と言う大きな音が、振動と共に聞こえてきた。 私は流石にハッとして、もう一度扉の方を見る。 私の部屋の扉はボロボロに全壊していて廊下は丸見え、 そして本来扉があるべきはずの空間の中央には、恰幅のいいフォルムの男性が仁王立ちした。 お父様だ。 「サルビア!」 「お…お父様、どうやって扉を…魔法でも使って扉を爆破させたのですか?」 男爵とはいえ、仮にも貴族の家。 厳重に作られているこの屋敷の扉が、どんなに恰幅がいいとはいえお父様1人の体当たりで壊せるとは思えない。 なら、使用人の手を借りて…? その割にはお父様以外の人影どころか気配がない。 使用人に手伝ってもらった線は薄いだろう。 とうなると爆弾でも使ったのだろうか… いや、それにしては被害が小さすぎる… 「魔法は使ってない、なぜなら『魔法持ち』ではないからな 扉をどうやって開いたのか、そんなことはどうでもいい些細なことだ! そんなことよりも...」 父は私の方をギョロリと睨み、一歩づつ私の方にゆっくり詰め寄りながら大声で話しかける。 「全く伯爵に迷惑をかけるなんて、恐れ多い まだ伯爵は屋敷にいらっしゃる。 早く先程の言葉を撤回し、縁談を受けてこい!」 お父様はこぶと…いいえなかなか恰幅の良い体型をなされているので、 こう言う時の威圧感はすごい。 しかし怖気付くわけにはいきません。 自分の人生、こう言うことははっきり申し上げなければ。 「抜け出したのは謝罪しますが、意思を変えるつもりはございません。」 私はプイッと顔を背ける。 それが変わらない以上、話しても無駄だ。 だから話の途中で逃げてきて閉じこもったのだし。 穏便にていよく、この場から仕方なくお父様が去る方法はないかしら。 そんなことを考えてふと顔を上げると、 もともと扉のあった場所に小さな人影が見えた。 「マーガレット、どうしたの?」 私がそれが1番下の妹だとわかり、お父様を無視して声を掛けると、 するとお父様も気がついたのか、少し驚いた様子で振り返りマーガレットを見る。 「マーガレット、いつからここに?」 もちろん、この件とは無関係のマーガレットにはいつも通りの優しい声で声を掛けるお父様。 しかし、扉が壊れて怒鳴り散らしている男性を見たなら、 どんなに自分の父親であろうと、幼い少女が怯えないはずがない。 「えっと……その…本を…返しに…」 怯えきって声も体も完全に震えていた。 その様子を見て流石にバツが悪くなったのか、少し困ったような表情をするお父さま。 これは…使えますわ。 私はニヤリとしてお父様に話しかける。 「お父様、そんなお怒りの状態ではまともなお話もできませんわ。 もっと頭を冷やして冷静になってからお話ししましょう。」 「なんだと?」 「見てください、マーガレットがこんなに怯えて… 無関係なのに可哀想ではありませんか。」 「…伯爵様がお待ちなんだぞ」 「今日1日粘っても、答えは変わりませんわ。 どちらにしろ既にだいぶお待たせしているのですし、事情説明はされに行った方が良いのでは?」 「…」 お父様は私の説得に少し納得されたのかため息を吐くと、 お父様は回れ右をしてとぼとぼと部屋を出て行こうとした。 これで穏やかな時間が戻ってくると思ったのだけれど… 扉でマーガレットとお父様がすれ違った直後に誤算が起こった。 お父様がよりにもよって、マーガレットが返しに来た本に目をつけてしまったのだ。 「本…と言うよりは日記帳に見えるが…」 「あ、それは!」 ノートを受け取るのを止めようと手を伸ばすも、ここから扉までは遠く当然止められるわけもない。 私の声なんか無視して、お父様はノートをマーガレットから受け取ると、開いてページを2・3ページペラペラとめくった。 「サルビアの字のようだが…明らかに日記ではないな…趣味か?」 「えーっと」 お父様からの質問に、なんと返答しようか困ってしまい口籠ってしまう。 そんな私の様子に何か嫌な予感がしたのだろう。 「趣味だよな?」 お父様は念を押すように、強めに私に尋ねた。 オワッタ… どうしましょう…誤魔化そうと思えばいくらでも方法はある…けれど… いいえ、何を怯んでいるの? こんなところで、自分の意思も言えないようじゃ自分の未来は選べない。 私は大きく深呼吸をするとお父様を真っ直ぐ見据えて答える。
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