22話:荒らされた部屋から消えたもの

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22話:荒らされた部屋から消えたもの

そこでみた光景は予想より酷かった クローゼットはめちゃくちゃ、ドレスが散乱し机の引き出しは開きっぱなし アクセサリーと紙は床に散らばっていた。 「ど…泥棒?私の部屋に!?」 私はまず最初に確認したのはクローゼットに隠したトランクだった。 この中には、株で儲けた金品が入っていたのだけれど、 それはそのままその場所にあった、というか触られてすらいなかった。 使用人たちと一緒にドレスとアクセサリーを確認したけれど 何一つとして無くなっていなかった。 なら、一体誰が部屋を漁ったというのか…何もせずに部屋を出て行ったのか… それとも誰かスパイとして屋敷に紛れ込んだのか… 色々と考えているとアンナが私に声をかけた。 「お嬢様…あれだけありません」 「あれ?」 「あ…いえ…ノートが一冊だけ見当たらないので、 もしかしたらそれが盗まれた可能性が…」 小説? なぜそんなものがなくなるというの? 一応私はアンナに確認する 「なんの小説?」 「お嬢様が3作目に作られた…」 「あぁ…」 私はその作品のことを思い出す もしそれがないというなら、それが盗まれた…ということになるのだろうけど そんな素人が書いた小説を盗む理由が思いつかない。 私が色々考えていると、ネモローサ様が私たちの会話に割って入てきた。 「どのような内容だったのですか?」 「え?えーっと…ご興味がおありで」 「まぁ、参考程度に。」 ネモローサ様は適当な口調で言っていたけれど、少し真剣な面持ちだった。 私は、それを見て思い出しながら無くなった小説の内容を話した。 「町医者の話です」 「医者?」 「腕があり、知識も豊富だけど、 爵位とお金がない町医者が、王妃様を救う話ですわ。」 「王妃様を救う経緯は?」 「国王様が国中の医者を集めるんですの。 王宮お抱えの医者でもどうにもできないと言われて…苦肉の策で」 「その話を書かれた経緯は?」 思った以上に食いつくネモローサ様に少し違和感を持ちながらも、 何か考えがあるのかもしれないと思い直し、質問に答える。 「あの時は…皇女様が危篤だと伺って…回復を祈願して書いたのです。」 「祈願?」 「病に伏せた皇女様をモデルにした作品ですか?」 「皇女様と、侍女たちから評判だった町医者ですわ。 安く受信しすぎて儲けがなく、畳んでしまったようですが。」 「書かれたのはいつです」 「だいぶ前ですわ…皇女様が危篤と聞いた時…少なくとも回復の知らせを聞く前…ですね。」 「どのような病気で、どのように治療を受けたのかはご存知ですか?」 「いえ、死の淵を彷徨ってるくらいしか…でも宮廷お抱えのお医者が治療法を見つけられたのではないのですか?」 「…」 ネモローサ様はようやく質問をやめたかと思うと、今度は黙り込んでしまう。 いったい今の質問が、私の部屋が荒らされたこととなんの関係があるのかと疑問に思ったけれど、 ちゃんと考えがあったらしい、ネモローサ様は何か察したのか「そう言うことか…」と呟くと私に向き直る。 「サルビア、もしかしたら今狙われたのはあなたかもしれません。 そうなると…このままこの地域にとどまるのは危険かもしれません。 しばらく、身を潜める意味でも公爵領へ参りませんか?」 「え?」 いきなりの申し出に戸惑い、冗談かと思ったけれど相変わらず真剣な表情のままだ。 見る人が見たら、告白シーンと間違えられるだろう。 というか、この部屋にいる数人の使用人たちはそんな勘違いをしているのか口を挟まず、 固唾を飲んでこちらを見ている。 しかも心なしか彼らの顔が赤い。 でも、そんなロマンチックなシーンというよりは切羽詰まってると言った方が実際は正しい。 ネモローサ様は彼らを無視して言葉を続ける。 「この前のオペラのこともありますし、あなたは狙われている可能性があります。 ここにいるのは得策ではありません。 今日、準備出来次第一緒に公爵領へ行きませんか?」 ネモローサ様のいうことは正しい、確かにこうなった以上私が狙われている可能性が高いだろう。 どこかに身を潜める必要があり、ネモローサ様が了承しているのであればお言葉に甘えることに意を唱えるつもりはない。 ただ… 「…お願いを聞いてい頂けるのであれば…」 私はダメもとでとあるお願いをネモローサ様に申し出てみた。
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