24話:彼の義務

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24話:彼の義務

顔を上げると、黒い服を着た誰かがいた。 突然のことで理解は追いついていないけど、一つわかることがあるとすれば… この人は私に何かをするつもりだということ。 日陰になっていて人でもない通り、こんなところにいては誰にも気づいてもらえない。 「だれっ…カハッ」 私は、大声を上げて不審者がいることを伝えようとした。 でも、お腹を思いっきり蹴られてそれを阻止された。 しかも最悪なのは、さっき動かなかったのは足だけだったのに、全身動かなくなっている。 まるで金縛りにでもあった気分、 いえ…違うわ…これ…体が動かないのは魔法だわ。 おそらくその不審者が魔法を使っているのだろう、 彼の手から金色の光が見えるのが何よりの証拠…のはず。 みたことないから予想でしかないけれど。 でも、初めて魔法にかかったけれど、そうでもないと今の私の体に起きてる現象が説明できない。 まぁ、魔法だったとして対処法が全く思いつかないのですけど… 焦っている私をよそに、相手は余裕そうだった。 その怪しい変種つ者は、私のノートを見つけるとそれを拾おうとしたので、それを止めるため声を出す 「格好見てわからない?私はしがない作家志望よ!お金はないわ!そのノートには触らないで!」 そういうと、不審者はノートを取るのをやめた代わりに私の方に歩いてくる。 そして、不審者は私の帽子とかつらをとり、髪を掴む。 「痛っ!ぞんざいに扱わないでよ!」 そう訴えても何も慌てた様子を見せない。 ここまで変わらないと不気味すら感じる。 「…やはりな。」 そう言って、何も説明せず不審者は私の髪を掴んだまま、私をどこかに引っ張っていこうとする。 私がそれに対して恐怖を感じているその時 「こちらとしてはありがたいが、誘拐するつもりなら1人係なんて無茶はしない方がいい」 という、いつの間にやら現れたネモローサ様の声が聞こえる。 そして、ネモローサ様の後ろにいる…おそらくネモローサ様のお付きの護衛らしき方が魔法を使ったのだろう。 手の前に光の紋章が現れると、不審者の頭の上からバシャーンという音を立てて光の光線が当たる。 おそらく雷だ。 不審者は光が当たった直後、ビクッとだけ体を震わせると、そのままバタンと倒れてしまった。 「やはり、思った以上にこの辺りの治安は悪いな…サルビア大丈夫ですか?」 「私はなんとも…」 「それは良かった、連日このようなことばかりで申し訳ない。」 「いえ、別にネモローサ様のせいでは…」 「急いで馬車に戻りましょう。」 「このものはどうしますか?」 「縛って荷車にでも入れておけ」 ネモローサ様は雷を起こした護衛にそういうと、倒れた不審者には目もくれず 私を抱き抱えた。 いわゆるお姫様抱っこというやつだ。 「こ…ネモローサ様!?」 「痺れの魔法でもかかりました?だとしたら動けないでしょう。 じっとしててください。」 いつものおちゃらけた様子ではなく、ぶっきらぼうな言い方でした。 なぜ、ここで連れ去られそうになってるのがわかったのかとか聞きたいことはいくらでもあった。 でも 「何度も助けていただき…ありがとうございます。」 ここは素直にお礼を言うのが吉でしょう。 この体制は恥ずかしいけれど、命を2回も救っていただいたのですから。 ネモローサ様は私の言葉を聞くと 「いいえ、私の義務ですから」 と返事をしました。 義務? それは…いったい何に対してなのでしょうか。 まだ夫婦でもありませんし…守られる義務なんて思い当たりませんけど。 でも、その引っかかった部分を聞くことはできなかった。 その前に馬車までたどり着き、私を中に座らせると 先にネモローサ様が別の疑問を口にしたからです。 「しかし、妙ですね…」 「何がです?」 「サルビアは確かに狙われている、しかし…今は庶民の男性に変装している状態 遠目からでは君の存在がわかるわけがない」 確かに…ネモローサ様お墨付きの男装。 編集長が1時間話しても男装だと気が付かなかったくらいのクオリティーはありますわ。 少なくともこの格好を見て私だと…なんなら貴族令嬢と気付く人間がいるかどうかも怪しいくらい。 じゃあ、なぜあのような風に狙われたのでしょう。 可能性としましては… 「私を狙ったのではないのかも…もしくはスリかもしれませんわ」 「こ綺麗にしてるとはいえ、宝石身につけてるわけでもなければ まさに庶民の服を身につけている君を?」 「もしかしたら、何も身につけていなくても、貴族の高貴さが溢れて」 「いると思っているのですか?」 失礼な人ですわね、相変わらず。 気品がないとでもいうのでしょうか。 でも、そんな冗談で和むほど、このピリピリとした空気は軽いものではありませんでした。 「まぁご心配されなくても、サルビアが公爵領にいる間に解決させる」 そんな覚悟に聞こえるようなセリフを耳にすると、なんとも言えない妙な感覚を感じます。 「なぜ、そこまでされるのです」 だから思わず、本人に聞いてしまいました。 「何度も言ってますが、私はあなたの縁談を保留にしているのですよ? 結婚してたにしても、義務が発生するわけじゃありませんし、 私に執着する必要なんて…ないじゃありませんか。」 「…」 「今は、何も考えないでください。」 「でも」 「そんなことより、途中であなたの服を調達しなければ… 公爵邸へお招きするとき、皆に本当にあなたが男性だと勘違いされてしまいます」 「お気持ちは嬉しいですけど、そこまで言わなくても良いのでは!?」 「あはは」 ネモローサ様のお気遣いで少しだけ、さっきの空気が和んだ気はした。 でも、話は逸らされたまま質問に答えてくださることはありませんでした。 御者が戻ってくると、そのまま公爵邸に向かって馬車は走り出すのでした。
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