25話:公爵領

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25話:公爵領

翌日、公爵領に着いた。 そこは、私の住んでいる領地より広く美しい街でした。 でも、予想と違ったことがありました。 「ネモローサ様、この領地では『魔法持ち』の保護も行なっていると聞きました。」 「えぇ、その通りですよ。」 「ですから、ここは魔法使いで溢れ、夢と魔法のような街なのかと思っておりましたが… 案外他の地域と同じなのですね…いえ、都会ではあるのですが。」 「…以前はあなたの想像通りの街でした。 この領地に避難してきた者たちに、魔法の修練をさせ、魔法の使用を大々的に許可してました。」 「しかし何度も説明したように、最近の魔法持ちの存在をないことにしたい貴族が多い。 その都合上、表立って魔法を使わせるわけにはいかないのです。」 「悲しい話ですわね。」 「ただ、表立っていなければいい話。 裏方では、魔法使っているところが見られますよ」 「え?」 「いらっしゃいませ」 公爵領の街では普通の人しかいませんでした。 しかし、公爵邸の中はワンダーランドでした。 まず公爵邸に着くと、誰もいないのに自動で門が開きました。 馬車から降りて、屋敷の中に入るまでの間のお庭では、 箒とちりとりが一人でにダンスを踊って掃除をしている。 邸宅に入ると使用人たちが2列に分かれてお出迎え。 邸宅の廊下を歩くと、先頭の人が通ったところから自動的に蝋燭の火がついていき、 客間に案内されると、侍女が指をくるんっと回すと、一斉にカーテンが開いた。 別の使用人が指をパチンと鳴らすと暖炉の中の火がつき、外で洗濯している使用人は水を生み出し洗濯樽に水を注いでいた。 外の街とは違って、中では魔法が溢れていた。 そのあと、ちょうど昼時になったので ネモローサ様と一緒に食堂でランチをいただくことになった。 その食事の給仕で、飲み物もボトルなしでグラスの中に湧き出てくる魔法が使われるなど、 魔法使いどころか魔法持ちが少なくなったこの時代では、滅多にお目にかかれない。 その様子に感動していると、向かいにいるネモローサ様が私に話しかけてくる。 「お気に召しましたか?」 「す…すごいですわ。」 「魔法は、今の状況では表立っては使えませんが このように裏方ではかなり活躍しているんですよ。」 なるほど、人前でさえなければ使いたい放題というわけなのですね。 「出版社とかもこちらで活発的なのは、物をコピーする魔法を持ってる人間がいるからなんです。」 「そうなのですね。」 たしかに、文字の書かれた本を量産なんて、魔法でもない限り無理だものね。 魔法使いがいる公爵領が盛んなのはわかる気がする。 私はうなづきながら、 注がれたワインを一口飲んで、チキンを一口サイズにナイフとフォークで切り取り口に運んだ。 さすが、公爵邸のお料理。 チキンがプリップリでとてもジューシーですごくおいしかった、これは夕食も期待できますわ。 私はそんなことをしばらく考えながら、ネモローサ様のことは忘れお料理に夢中になり舌鼓を打っていた。 しばらく食器のカチャカチャという音だけが響いていた食堂に、誰か使用人が入ってきた。 どうやらネモローサ様に用事があるようで、軽くお辞儀をするとネモローサ様の元に歩みを進め耳打ちをした。 少し眉を顰めたあと、私の方に顔を向ける。 「サルビア、今日ついたばかりでお疲れで申し訳ないのだが、今日時間はあるだろうか?」 「え、えぇ。なんでしょう?」 「急なのだが、パーティーに呼ばれまして」 パーティー? あぁ、今の使用人はそれをネモローサ様に伝えたのかしら。 でも、こういうのって事前に連絡が来て出席欠席を伝えるはずですけれど… 「準備も手間もかかるパーティーが、そんな急に始まるものなのですか?」 「急に呼ばれた…というよりは父上の代理だ。」 なるほど、代理で…ということは何かご都合でお父様は出席できなくなったというわけでしょうかね。 「それで、パートナーが必要なのですが」 「分かりました、ご一緒します。」 「…」 快く私がパートナーの誘いをOKすると、ネモローサ様が鳩が豆鉄砲をくらったような顔をする。 「何か?」 私はネモローサ様にそうそっけなく理由を聞くと、腑に落ちなさそうにネモローサ様は話す。 「素直だな、いつもならもっとごねて逃げ出すのに」 「わざわざ匿ってくださってるんですもの、そのくらい引き受けますわ。」 それに、それこそ貴族の義務ですし。 さすがに、公爵領への移動で時間がかかって疲れてるので、小説を書く気分にもなりませんし。 助けていただいたお礼もありますしね。 私はそういうと、口の周りをナプキンで拭いた。 「そういうことなら、遠慮はいらないな」 私の様子を見たネモローサ様はそういうと指をパチンと鳴らす。 すると、侍女たちがその合図と共に食堂の中に入ってきて、ズラリと並んだ。 「え?え?」 「お申し出、大変感謝する。 ただ結構時間が迫っていてな、申し訳ないが今から準備させてもらう。」 その声と共に、私の後ろにはさっき入ってきた侍女たちが並び、私の腕をつかんだ。 「それではサルビア様」 「私どもが丹念を込めてお手入れと見繕いさせていただきます」 「まずはお風呂から」 「ちょ、ちょっと待ってー!」 そのまま席から立ち上がらされて、厨房から行かされることになった。 まだデザートが来てないのにー! という叫び声は聞いてもらえることができず、そのままバスルームへ連れて行かれた。 それからというもの、早かった。 豪華なお風呂…それもユニットバスではなく広い豪華な温泉。 侍女特製のポーションで体をゴシゴシ表れ、ゴシゴシと体を磨かれ ケアが終わったろ思ったらクローゼットルームに連れて行かれ何千種類とあるドレスを取っ替え引っ替え合わせられ、コルセットをぎゅうぎゅうに締められ着替えさせられる。 食べた直後なのでだいぶ苦しい。 その後メイクをがっつりされ、ヘアメイクもワックスバリバリでセット。 そしてあれやこれやのアクセサリーをつけられ、気がつけば外は真っ暗である。 ここまでの準備に半日かかるなんて… でもその甲斐あって普段男爵邸で木かzっているときよりも綺麗にドレスアップした。 準備していただいた紫色のドレスと、普段はおろしている髪をアップにし、身につけたことのないサファイアのアクセサリーを身につけていた。 メイクもいつもより大人っぽくて、自分自身で見惚れていると 扉がノックされる。 ネモローサ様だ。 「準備でき…」 声をかける途中で、ネモローサ様の動きが止まった。 それは一体どういう反応なのでしょうか。 やはり、普段の地味な私には些か派手でしたでしょうか それとも、少しは似合って… 「ほう…着飾れば化けるもんだな…馬子にも衣装」 「そんなこと言うのであれば、引きこもりますわ」 一応褒めていただいてはおりますが、全く気分は良くない。 どうせどんなに着飾ったって、こんなもんですよ。 と勝手に不貞腐れてみたりもした。 でも 「お似合いですよ」 ネモローサ様に微笑まれながら、そう言われると少し照れてしまう。 「それでは、お手を」 スムーズに手を差し出され、自然にエスコートをしてくださるネモローサ様。 「ありがとうございます、ネモローサ様もいつも以上に様になりますわね。」 だから、私も柄にもなくネモローサ様を褒めてみたのでした。
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