26話:パーティーでエスコートされてあげます

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26話:パーティーでエスコートされてあげます

会場に着くと、それは煌びやかな豪華なお屋敷でした。 綺麗に着飾った紳士淑女の皆様が集まっておられて、あまりにもキラキラしたその世界に目が眩みそうでした。 主催の方に挨拶に行きましたが、かなり上品で優雅な方々でした。 しかし…先程のネモローサ様の家で見たような魔法はお目にかかることはできませんでした。 「やはり、こういうパーティーでは魔法持ちは活躍できないのですか?」 「今日のパーティーには数多くの貴族が呼ばれています。 魔法持ちの存在をない事にしたい貴族の方に、そのようなシーンを見せるわけには行きませんので、公爵領でのパーティーでも魔法は使わないようにしてるんです。」 その代わり完全裏方では、使いまくっているんですけどね。 とネモローサ様はこっそり耳打ちをしてくださいました。 「ところで、このパーティーは…」 何のパーティーなのか…と尋ねようとすると、 オーケストラが一曲目の曲を演奏し始めた。 優雅なワルツが流れると、何組かが中央で踊り始める。 ネモローサ様は私に手を差し伸べると 「どうです?せっかくですし一曲くらい。」 とスマートなダンスのお誘いを受ける。 「あら、私とでよろしいのですの?」 「どんなに下手な方でも、今夜のパートナーですから。」 「人のダンスの腕前を見たこともないのに、決めつけでものを言わないでいただけます?」 私は半分受け言葉に買い言葉で、ネモローサ様の手を取る。 確かに私は日々引きこもって小説を書いておりましたが、それとダンスが踊れるかどうかは別問題。 これでも一応最低限のパーティーには参加しておりましたので、 踊れるかどうかと言われれば、普通に踊れる。 私はネモローサ様のステップに確実についていき、適度なところで回ってみせる。 「ほう、確かに人の足を踏まずに踊り切ることができる程度にはお上手ですね。」 完全に踊れないと思い込んでいたネモローサ様が、私のお手前をみて舌を巻いた。 「私も貴族の端くれですから、パーティーで踊る機会は普通にございますし、 だいたい、何度かパーティー会場ですれ違っていると言うのに実力を知らないとは、 いかに私のことに興味を持っていないか透けて見えますわね」 だから私は嫌味を返してやりました。 その後、曲が終わり踊り終わりダンスの輪から外れると 「あら、ネモローサ様。」 ネモローサ様が誰かに声をかけられる。 「これはルンビア夫人、ご無沙汰しております。」 私は小声でどなたかを尋ねてみてところ、どうやらお仕事せお世話になっている方らしいということを教えてくれた。 少しネモローサ様とお話ししたあと、夫人は私の方をみたので挨拶をする 「お初にお目にかかります、サルビア・ファリセリアと申します。」 「あら、また可愛らしいお嬢さんをお連れですわね」 可愛らしい…初めて言われた。 夫人の発言に伏せたまま少し照れてしまった。 「あの…お二人のご関係は?」 「…彼女は」 夫人にそう聞かれてネモローサ様は言い淀んでしまう。 確かに、今の私たちの関係って微妙かもしれませんわ。 親戚ではないですし、家同士の交流はこれまでありませんでした。 まだ縁談は保留にしてますし、説明が難しいかもしれませんわね。 …なんて思っていたのですけれど、 「私の婚約者です」 ネモローサ様が笑顔でそう言ってしまった。 まあまあの大声で。 「ちょ!」 「まぁ、そうでしたの!?ご婚約おめでとうございます!」 口を塞ぐ間もなく発されたその言葉を訂正しようとしたのだけれど 「心配してましたの、今までなかなかうまくいってない様子でしたので… 今度は結婚までうまくいくようお祈りいたしておりますわ」 「ありがとうございます」 夫人のテンションの上がり方がおかしくて、会話の輪に入れない。 っていうか、ちゃっかりネモローサ様も何お礼言ってるのよ!気持ちないくせに! そうこうしている間に、近くにいた妙齢の令嬢たちがその声を聞きつけ、ネモローサ様の周りに集まってくる。 あーこれはあれでしょうか? 『ネモローサ様、結婚しちゃうのですか?』『私と婚約して欲しかったです』『もっといい女性がおりますわ』みたいな、ネモローサ様親衛隊、もしくはガチ恋勢が主張しつつこっちを辱める発言をするのでしょうか、 と恋愛小説的泥ぬま展開を予想しておりましたが 「ネモローサ様、ご婚約されましたの?」 「ついにいい相手を見つけられたのですね」 「少し寂しい気がしますが、いつまでもお一人というわけには」 そんなこと言う女性は誰もいませんでした。 それどころか、私のところにくる女性もおりまして 「ネモローサ様と結婚されますの?」 「おめでとうございます、ご苦労なさると思いますが頑張ってください」 なぜそんな憐れみの顔で言われるのでしょう? おかしいですわ、この前パーティーでお見かけした時は、女性に囲まれてモテモテでしたはずなのに。 もしかして…彼と婚約すると嫉妬ですごい嫌な目にあうとか…そう言うことでしょうか? だから『ネモローサ様はみんなのもの』的な… 「あの、もしかして…これで嫌がらせされるとか…そう言うご心配をしてくださっているのですか?」 本当はそう言うことを祝ってくださってる令嬢に聞くのもおかしな話なのですが、 この異様な状況を前に聞かないと言う選択肢はなかった。 私の質問に、令嬢たちは戸惑いながら教えてくださいました。 「その…3人目くらいまでは…確かにネモローサ様の婚約者への嫉妬は凄まじく、 ここ何十年でパーティーが泥ぬま化してましたけれど」 「その3人目の方でしたっけ…嫉妬でいじめられてるところをネモローサ様が目撃されたのですが… 『関係ないのでご自分でどうぞ』と冷たくあしらわれたらしく」 「同情で女性の友情がその場で芽生えたと伺いましたわ」 その話を聞いて頭によぎった考えは… きっとその虐められていた女性は…仮にその彼女を引き摺り下ろしたとしてもそんな対応をされるんだと言うことを目の当たりにし、夫人の座を諦めたんだろうなぁ…と言う思いでした。 何でしょう…あの人が何人も婚約破棄されて売れ残ってるのか、理由が今わかった気がしますわ。 「ご存知ありませんでした?」 「噂話には興味がなくて…」 と言うのてるわけにはいかない建前で、実際は適度に踊った後は適当な場所で小説のことばかり考えておりましたので…。 特に友人もおりませんし、昔無理に遊んだプランテス様とはお互いに会いたくなくて避けてましたし。 「そうでしたのね、何かありましたらご相談くださいまし」 「いつでもお力になりますわ」 「あ…ありがとうございます…」 彼女たちは私の手を握り握手を交わすと、またどこかへと去ってゆきました。 どうしましょう、気になることがあったせいで誤解を解くの忘れておりましたわ… 私はネモローサ様の方に顔を向けると、まだ女性の方に囲まれておりました。 「ネモローサ様…今は忙しそうですわね。」 私はため息をつくと少し一人になりたくて会場をフラフラしていると 「お飲み物はいかがですか?」 とボーイの方にシャンパンを勧められました。 「ありがとう」 私はそう言ってボーイから受け取ると、それを持って近くのテラスに出た。 「少し夜風にでも当たろうかしら。」
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