29話:その力の証明

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29話:その力の証明

「なぜここに?」 「なぜって、あとで私も行くと言ったではありませんか。 荷物と共に、今日こちらに着いたのです。」 そう言えば、家を出る前にアンナが荷物と一緒に来るとか何とか言ってたわね。 忘れてたわ。 アンナはお盆に何か乗せたものを持ちながら、そばにいるネモローサ様をスルーして私のベットの脇にきて 近くにあった椅子に手を伸ばすとそこに座って膝の上お盆を乗せる。 そしてその様子を見て私は頭をぽりぽりとかくと、その手を取ってアンナは泣きそうなウルウルとした瞳で私を見つめてきた。 「そんなことより良かったです、パーティー会場で倒れたと伺った時は気が狂いそうなほど心配致しましたが。」 「ご…めん…なさい。」 「謝らないでください。 それよりもお嬢様、お腹は空いておられませんか? 厨房でスープをいただいてきました、トマトベースの具沢山スープです。」 私はあんながいることにも驚いたのだけれど、その持ってこられたスープにも驚いて目を見開く。 「よろしければ食べさせて差し上げます」 しかしそんな私の様子なんか気にもせず、テンションの高いアンナは スープをスプーンで救うを私の方にそれを向け、口に無理やり突っ込もうとする。 それに戸惑った私は 「ちょ、あ、アンあっつ」 顔を背けてしまい、スプーンが頬に直撃してしまう。 そして、慌てて立ち上がった彼女は、膝の上に乗せていたお盆をひっくり返してしまう。 つまり、その上に乗っていた皿もひっくり返してしまったため、スープも床にぶちまけてしまった。 「きゃあああっ!私としたことが!! お嬢様、申し訳ございません!」 「いいのよ、気にしないで…」 「私、すぐ掃除するものお持ちします!」 そういうと、彼女は慌てて身の回りのものを片付けて客間から出て行ってしまった。 その嵐のような出来事に追いつけず呆然と扉を見つめていると、ネモローサ様が私に話しかける。 「早速、答え合わせが必要のようですね。」 「…よくお分かりで」 私は物語をかいた紙をネモローサ様に見せる。 そこにはこのように書いていた。 『侍女のアンナが私が倒れたと聞いて看病に来る、 あまりにも心配していたせいで、ネモローサ様の挨拶も忘れ客なおのに飛び込む。 そしてトマトのスープを持って看病に来るけれどトラブル続きで客間かl逃げていく』 たったそれだけの文章。 でも、全部それが的中…違う、その通りにことが運んだのでした。 ネモローサ様はそれをみると 「…私の物語にはしなかったのですね」 とつぶやいた。 「えぇ、室内でカンニングされる可能性もあったので。 でも、この屋敷の方のことを存じなかったので、アンナをモデルに書かせていただきました。」 「私は彼女が来たとは言いませんでしたが」 「だから実現するはずがない、と思って書いたのです…」 それに、この紙にかいたことだって、普段なら起こり得ない出来事のはず。 だって… 「彼女は楽天的な性格ではありますが、有能です。 どんな状況でも、ネモローサ様がいるのに無視するなんて礼儀を欠くことはありえないですし、 彼女がスープをひっくり返すこともあり得ませんわ…」 ついでに、彼女は私に食事の手伝い(いわゆるアーンと言うやつ)をしたことは一度もないし、 仮にやるにしても必ず『お手伝いしてもよろしいですか?』と一言聞く。 強行突破なんてしないのだ。 全て彼女の性格を予想して、反対の出来事を紙に書いた。 あり得ないと思って。 でも、全部現実に起きてしまった。 「認めざるを得ませんわね。」 「…あなたの力は弱くとも、権力者から見れば喉から手が出るほど欲しい能力のはずだ。 実際ここ連日あなたは狙われていたのは、その能力を狙ってのことでしょう。」 「でも待って、魔法持ちだって私が知ったのは今日よ! なんで私より先に誰かが知っているの?」 「おそらく、あなたが書いた小説を読んで気が付いたものがいるのでしょう。」 確かに…ネモローサ様をモデルにしたストーリーや、皇女様をモデルにした話を 本人を知ってる人間が見たら、気付く人がいるのかもしれない…でも 「心当たりはありますか?」 「…」 私は首を振る。 あの2作以外、私が実在する人間をモデルに書いたことのある人はいないし、 そもそも小説を書いてることを知ってる人すら少ない。 しかし、ネモローサ様は真剣に私に言う。 「もしかしたら、その人間が…男爵寮での行方不明事件と関係があるかもしれないんです。」 「どういうことですの?」 「行方不明事件が魔法持ちと人身売買の両方に関係している可能性がある。 そして、あなたが狙われたということは、その関係者があなたを狙っている可能性が非常に高い。 あなたの犯人が特定できれば、問題解決につながるかもしれないんです」 「そんなこと言われても…」 私は頭の中を巡らせる。 知ってるのは、つい最近知ったお父様は除外して、 アンナとマーガレット、そして出版社の編集長。 マーガレットは8歳、こんな大それたことなんかできない。 アンナは昨日のパーティーに来ていない。 編集長は実在する人物をモデルにした作品を見せたのはオペラで狙われたあと。 心当たりがある人間は他に… 「あ…」 「思いつきましたか?」 「可能性がある人物なら…でも証拠がありませんわ」 該当者を呼ぶことはすぐにでも可能だと思う、 けれど、その者が認めなければ意味がない。 もしかしたら、心を読む魔法持ちもいるかもしれない。 でも… 私は紙に心当たりのある人間の名前を書く。 そしてそれを見たネモローサ様は、納得したようにうなづく。 「なるほど、ありえるな。」 「助かったよ、あとはこの人物を呼び出して尋問を…」 「お待ちください」 私はネモローサ様を呼び止める。 「どうされました?まさか…情けをかけるおつもりで?」 もちろんそんな話ではない。 でも、このままその人を捕まえても、多分のらりくらりと買わされて終わり。 だって、証拠がないんですもの。 しかも、状況から消去法で推理しただけ。 それに…動機だってわかっていない。 本気で捕まえるなら、準備が必要。 だから、ネモローサ様に申し出た。 「そうではなく、この作戦…私に立てさせていただけませんか」 「君に負担をかけさせるわけには」 意外にも、慌てた様子で拒否するネモローサ様。 てっきり使えるものは使え精神なのかと思ったけれど、 やはり昨日のことで少し何か思うところがあるのでしょうか。 「なぜですの?別にただ睡眠薬を飲んだだけですのに」 私がそういうと、ネモローサ様は「そうではなく…」と少し言いにくそうに話す。 「多少は悪いと思ってるのです、騙し討ち見たな縁談を持ちかけて。 魔法持ちが誰であったのか、それを知る目的を知った以上あなたにこれ以上負担をかけるわけには」 意外なネモローサ様の言葉を聞いて、私は思わず「ふふっ」と笑い声を漏らしてしまう 「何を笑う」 「いえ、だって…あーおかしい。」 普通に考えて、私は利用するのにうってつけの人間だし、 わざと持ちかけた縁談なら、むしろ巻き込む気満々でもおかしくないのだ。 いや、もしかしたら結果的に巻き込むことになったと罪悪感を感じているのかもしれない。 そう思うと、思っていたより可愛らしいところがある人間なのかもしれない。 「やっとわかりました、こんななんの変哲もない私に縁談を持ちかけて、 愛を求めない結婚を希望してるはずなのに、毎日家に通って贈り物を送る理由が全くもって理解できなくて。」 それに比べたら、利用してると宣言してもらった方が楽ですし、 いっそのこと最後まで利用してくださった方が、こっちも清々しいですわ。 「ネモローサ様、犯人逮捕のためどうぞ私を使ってください。」 私は、少なくとも縁談の話よりもノリノリでこの話を自ら申し出た。
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