30話:犯人は…

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30話:犯人は…

翌朝。 公爵邸の門の前には、質素な馬車が一台止まっていた。 身支度をした私は、ネモローサ様とアンナに声をかけられていた。 「本当に戻られるのですか?」 「心配ありがとうございます、でも守ってもらってばかりじゃ悪いですわ、 お父様の顔を見てご報告したいことがありますし」 「でも婚約されたのであれば、このままこちらにいらした方が」 「アンナ…、昨日追いついて来たばかりで本当にごめんなさいね。 でもあなたの言う通り、婚約したのだもの…またすぐ戻ってくるからしばらく待機しててちょうだい」 「かしこまりました」 「それでは、道中お気をつけて」 私はドレスをつまみ足を下げ腰を低くするという、貴族の見本の様な挨拶をすると そのまま私は馬車に乗り込んだ。 それを確認すると、馬車は進み始め公爵邸を後にし、 しばらく走ると人目ににつかなさそうな自然豊かな森の中を馬車は走って行った。 そこはとても穏やかで、草木が風で揺れる音以外には何も聞こえない。 だからこの馬車が走る音がとても鮮明に響き渡った。 私は外の様子をぼーっと見つめていると、ガサガサっという音が聞こえるとともに草が揺れたのを確認した。 それが動物の音ではないことはすぐにわかった。 突然黒い影がみえたと思えば、ガタンと馬車は大きく揺れ止まる。 そしてその直後 「やめろっ!はなせっ!」 御者が誰かと争う声が聞こえてきたからだ。 「どうなさいましたの!?何かありまして!?」 私は心配になり前のカーテンを少し開け、様子を見ようとすると、 扉のガラスがぱりんと割れた。 「だ、誰ですの!?」 と振り返るまもなく、誰かに布で口ものを塞がれ、意識を失ってしまった。 硬い…でもひんやりとした地面の感覚が、体に伝わった。 何かで括られているのか、手足が思うように動かない。 私はゆっくりと目を開くと、どうやらそこは石畳でできた部屋であることがわかった。 牢屋ではない、なぜならその場所に見合わない机と椅子が目の前にあったからだ。 そして、そこに誰かが座っていた。 私はそれが誰か確かめようともぞもぞと動いていると 「目が覚めたか?」 その影はこちらの方を向き、私に声をかけてきた。 聞き覚えのある声だ。 私は顔を前に向けると男の足が見え、視線をそのまま上にあげた。 「プランテス様」 私は静かな声で彼の名前を呼ぶ。 その様子を見て、少し驚いたようなでも企みを含んだような笑顔のような なんともいえない不気味な表情を浮かべる。 「驚かないのか」 「予想はできました」 私はそういうと、体制を起こそうとも引き続きぞもぞとする。 しかし、やはり体を縛られているこの状態ではその願いは叶わなかった。 諦めて私はその場所で話を始める。 「男爵領でも狙われましたが、この前のパーティーで睡眠薬を盛ったのがその犯人と同一と考えるのであれば、その時点で候補はかなり絞られました。 そもそも、あのパーティーで毒を漏れるのは、参加者である貴族か給仕をする使用人しかいない。」 私が小説を書いている事を知っているのは、 マーガレット、アンナ、編集長、そしてお父様だけだけど、誰も今説明した条件には当てはまらない。 でも、私が把握してなかったけれど、知っている可能性がある人物が一人だけいた。 「男爵邸を出発する前、マーガレットは”おにいさま”に私の小説を見せたと言った。 この前のパーティーに出席していて、マーガレットが『おにいさま』と呼んでもおかしくない相手 昔からうちの屋敷を出入りしているあなたしかいないわ。」 私がそう言うと、プランテス様はぱちぱちと拍手をして 「ご名答、よくわかったね。」 と笑顔で祝福をする。 しかし私はそれに反応する事なく、冷静に話す。 「推理ものだったら、簡単すぎてあくびが出るほどね 私の部屋から小説を持って行ったのもあなた?」 「一応確証が欲しくてね…本当は例のネモローサ様をモデルにした小説を見たかったんだけど」 「…何が狙いなの…私の書いた小説なんて」 「当然、お前の魔法さ」 「私の魔法?」 「町医者が王妃の病気を治したあの小説…あれを読んで確信した。 お前は事前に魔法を使って『予知』ができていた、つまりこれは『予言書』と言うことになる。」 予言…? そうか、彼は小説を読んで私の魔法を推理しただけ… 本当はなんの魔法を持っているのか、まだ知らないのね。 それなら好都合よ 私は話を合わせて、相手に話させる様に質問を投げかける 「それで…予言の魔法を私が持っていたとしてそれがなんだというの?」 「別に簡単な話さ、俺の未来を予言して欲しい」 「予言?いったいなんの予言をして欲しいのかしら?」 「俺の未来さ」 「未来?」 この男は何を言っているのだろう。 未来のことなんか知ったところで、何変わるというのだろう。 だって、彼は伯爵家長男で… 「あなたはこのまま真っ当に生きていけば、普通に伯爵の爵位を継げるじゃない」 「そんな爵位で満足するような、くだらない男じゃないのさ。」 「じゃぁ…どうなれば満足なの?」 「英雄になりたいのさ」 「英雄?」 「近隣国との情勢はあまり芳しくない、いずれ戦争が起こる。 それに備えて準備をし、成績を残せば伯爵なんかよりも上の爵位がもらえる!」 「楽観的すぎるわ」 「それはどうかな、ネモローサ公爵だって先の戦争で魔法使いを軍隊として使い功績を残し今の爵位を得たじゃないか。 戦争が起きた時、我が騎士団に魔法使いが多くいれば…うちの騎士団は名をあげることができる」 「ちょっと待ちなさい。 当時のネモローサ公爵の先の戦争の行いのことは、もちろん知ってるわ…」 この話はネモローサ様としたわけじゃないから、実際のことは歴史書でしか知らない。 戦争に駆り出された魔法持ちたちは、大勢が戦死し犠牲を出した。 そのおかげで国は守られた。 でも、そのせいで魔法持ちは肩身の狭い思いをしていることを考えると、 やり方が他にもあったのか議論する余地はある。 「でも、少なくとも今は魔法持ちを攫って売ったりはしてないわ。」 「何?」 「今の話聞いて確信を持ったわ…あなたなのでしょう? 魔法持ちを誘拐してるのも、奴隷のように売買してるのも!」 「…」
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