隣に並び立ちたくて

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――ライブは大成功だった。  チケットを売り出してから鶴来の復活を広告したことにひと悶着ないわけではなかったけど、それ以上に話題となって来客者数は鶴来の卒業ライブを越えた。  アンコールで歌った鶴来の歌詞の新曲が一番盛り上がった。今も観客席の方からは興奮したざわめきが漏れ聞こえてくる。 「うあーっ、体力落ちたなあ」  そして、舞台袖では鶴来がぐったりとしていた。3年ぶりのライブで最初から最後まで歌いっぱなしだったのだし当然だった。だけど、その表情は満足げだ。 「久しぶりのライブ、どうだった?」 「最高」  鶴来がニッと笑って俺に向かって親指を立てる。 「それで、お前が並びたいって言ってた相手は会場にいたのか?」  鶴来は虚を突かれたみたいな顔になって、それからくつくつと笑う。 「いたよ。最初から最後までね」 「そ、そうか……」  自分で聞いておいて、気分がしゅんと沈む。久しぶりに隣で歌う鶴来は最高のパフォーマンスだった。これが今回限りではなくこれからもずっと続けばいいのにと思ってしまう。だけど、今日はあくまで鶴来の成長のためのステップだ。 「あのさ、蒼汰」  鶴来がフラフラと立ち上がり、俺の傍に近づいてくる。その顔にニッと笑みを浮かべて俺を見上げた。 「もし僕がバンドに戻りたいっていったら、今日のライブは何だったんだって騒ぎになるかな?」 「いや、今日限りとは言ってないから、どうにかなるだろうけど。でも、お前、小説は……」  隣に並びたいってやつがいて、そのために全部捨てて頑張ってきたんだろ。  そんな言葉は喉から先には出てこなかった。結局俺はわがままで、鶴来に戻ってきてほしいと思ってる。  俺を見上げる鶴来の口元がきゅっと引き締められる。柔和な顔立ちとうって変わって真剣な眼差しが正面から俺を見据えている。 「試してみたいんだ。居心地のいい場所を捨てて自分の信じた道に打ち込んだ僕が、今度こそ胸を張って隣に並べるか」  鶴来は右手にグーをつくると俺の胸にグッと押し当ててきた。高校の頃はひょろかったのに、バンドで活動してる間にちょっとごつくなった拳に一歩後ろに押し出される。 「久しぶりにさ、ワクワクして、ドキドキしてるんだ。責任取ってくれるよね、蒼汰」  そう言ってニッと笑う鶴来の顔はライブを終えたばかりだから少し火照ってて、無垢な瞳に吸い込まれてしまいそうになる。 「それにさ、蒼汰。忘れてない?」 「ん?」 「文化祭の時の約束。何でも言うこと聞くってやつ、まだ有効だよね?」
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