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ならば先に、と、可依は尊臣の眼をにらむように見上げた。
「悔いるような決断など、致しませぬ」
「そう来るか。……気に入った」
ふっと笑った涼しげな眼が、半ば伏せられる。崩れ落ちそうになっていた自らの背に、すかさず回された腕に抱き寄せられ、はっとした時にはもう、唇を奪われていた。
「名は?」
「……可依、と……」
慣れないくちづけの合間に問われた自身の名は、その夜、何度も尊臣の口から呼ばれることとなった。
❖
翌日。米と野菜と酒、それに絹織物が法外なほどに奉納され、養父は目を白黒させていたらしいが、可依はそれを夕方まで知らずにいた。
……夢占の反動と初めての夜の疲れから、泥のように眠りこけていたからだ。
「明晩も、来られますか」
「……なんだ。来て欲しくなさそうな物言いだな。身体がつらいのか」
「いえ、そうではなく」
尊臣の腕にいだかれたまま、いたずらに素肌をなぞられて、可依は身をよじる。乱れた合わせを引き寄せながら、じっと男を見上げる。
「わたくしは、巫女でいたいのです」
「霊力を失ってはいないということか」
俗に、男を知ると霊力が失われるなどというのは、迷信だ。たかが男と通じたくらいで霊力を無くしてたまるものか。
「ええ。未通娘でなくとも、巫女は務まるのです」
「……俺に口添えをしろと?」
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