15人が本棚に入れています
本棚に追加
傲岸不遜の国司。それが萩原尊臣という人物の評価である一方、民を思い、打てる手はすべて打つという、傲慢なだけではない面も合わせもつとされる。
(後悔をなさっているのかしら)
人間でありながら、神獣を手にかけたことを。
可依の思いを見抜いたように、尊臣が鼻で笑った。
「勘違いをするな。悔いるような決断であれば、最初からしていない」
それより、と、尊臣の手指がふいに伸びて、可依の頤をつかんだ。
「お前が俺の子を孕めるというのか」
「……っ!」
「俺には正式な妻だけで三人、通うだけの者を含めれば十人は下らない。古くは十五に契りを交わした女がいて、未だ誰も懐妊には至ってないのだ。
古い臣どもは相手を替えればというが、畳ではあるまいし女の問題ではなく俺自身に原因があると考えるのが道理だろう。
終いには、俺が一番 侮っていた赤虎を頼れとまで言われたのだぞ? 笑わせるだろう」
一息に言い切ると、尊臣はそこでようやく可依から手を離す。投げやりとも思える仕草は、どこか諦観の様を為し、可依には哀しく感じられた。
赤虎──赤い神獣は、生と懐胎を司る。
不妊に悩む民に施しを授ける神ではあるが、萩原家の所有する神逐らいの剣により、彼ら──下総ノ国の神獣との関係は、良くないと聞く。
最初のコメントを投稿しよう!