09.運命共同体

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深く頭を下げれば、会場に静けさが戻った。 この議案を通すためには、この場の株主の過半数の賛成が必要になる。俺の説得が敵わず反対多数となれば、再び推薦者を出して再決議だ。 俺にできることはやった。これ以上の発言は、あまりに肩入れしすぎて今までの説得の信憑性を落とすだけになる。 沈黙の続く会議室の空気をどう収めようか考えあぐねていたところ、ゆったりとした動作でこちらに顔を向けた向坂社長が口を開いた。 「……南萌は、どうなんだ?」 「え……?」 「アシストクリエーションの社長を……やりたいか、やりたくないか」 「……」 社長が南萌にこの質問をするのは、恐らく初めてだったと思う。 これまで会うたびに俺を後継者に、と話していた人だから……ここにきて初めて、南萌を娘ではなく後継者候補として捉えたのだろう。 「……私は、」 南萌の瞳がグラグラと揺れる。 会社を自分が継ぎたいという南萌の意思はなんとなく悟っていたが、俺だって本人の口からはっきりと聞かされたことはない。 俺に向かっていた視線が、今度は南萌に集中する。 唇を噛んで、一度下げられた視線がまた正面に戻ったその時……彼女の瞳は覚悟に満ちていた。 「……私は、子どもの頃から父の後を継いで、この会社の経営者になることを夢見ていました」 はっきりと宣言した南萌の声は部屋の隅々までよく響いた。それまでごちゃごちゃと文句を言っていた男たちも引き寄せられるように彼女の声に耳を傾ける。
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