09.運命共同体

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「女性だから、若いから……皆さんがおっしゃりたいことはよく分かります。分かっていたからこそ、皆さんに認めていただけるだけの努力を積んできました。 社長になれなかったとしても、会社に貢献できる人間になりたいと精進してきたつもりです」 一度口を閉ざし、視線を下げた南萌は社長に目を向け、懐かしそうに小さく笑った。 「子どもの頃、病院で我が社の製品を目にするたびに父の会社を誇りに思いました。日本の医療を支える我が社をいつまでも継ないでいきたいと思いました」 尊敬の眼差し。彼女の会社への情熱は、きっと父親への尊敬の気持ちからスタートしているのだろうと分かるそんな眼差しだ。 しかし、彼女の表情は次の瞬間、真剣なものに変化し、コの字型に座る株主たちを順繰りと見回した。 「しかし、そんな夢見心地な憧れだけではありません。 今回の改ざん問題を受けて、この会社には私が見えていない闇が沢山存在することに気づきました。 現地でヒアリングをしながら、この会社に希望を持って入社してきた社員がここまで疲弊し、辛い思いをしていることが心苦しくて仕方がありませんでした。 この人たちを、この人たちと同じ想いを抱えている人たちを……誰一人見逃さず、私が救いたいと強く思いました」 語気を強めて宣言した南萌は今度は俺をチラリと見やり、ふぅ、とひとつ息を吐いてから、勢いよく立ち上がった。
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