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10.遅ればせな二人
「えーっと、あれ持ったでしょ、これも……オッケー」
結婚式を明日に控え、持ち込み品の最終チェックをする私に「何回確認すんの」と呆れたように声をかける海里。
ついに明日が本番、という気持ちの焦りから「何回も確認すんの!」と半ギレで返せば、「前日くらいゆっくりすればいいのに」と、海里は私とは正反対に完全リラックスモードだ。
「だってだって!一年も待ったんだよ?!絶対失敗できないじゃない!」
「気負いすぎ。私たちの意思はない会社のための結婚式だーって散々喚いてたくせに」
「そ、そうだけど……いざ明日本番ってなると緊張するでしょ?」
「別に?」
相変わらずの表情の乏しさ。本当に緊張を感じさせないのがなんか悔しい。
持ち込み品チェックを中断して、ソファーに寝転がる海里の元に近寄ると読んでいた本をパタリと閉じて「ん?」とこちらを向く。
同棲を始めて半年が経ったが、私が近寄ってくると何をしていても中断して相手をしてくれる。そんな彼に新鮮にときめいていることは、恥ずかしいから秘密だ。
「んうぅ〜」と伸びをするついでに海里の胸の辺りに覆い被さって、「疲れた」と甘えた声を出せば、小さく笑って「おいで?」と優しく私を抱き上げる海里。
素直に抱きしめられると、子どもをあやすようにポンポンと心地よいリズムで背中を叩かれた。
「昨日俺も確認したし、心配ならもう一回俺もチェックするからもうゆっくりしな?」
「うう、ダメだよ。この後浮腫み防止のストレッチして、ナイトマスクもしなきゃなの。明日のために仕上げなきゃなの」
うだうだと呟きつつ、猫みたいに海里の胸に擦り寄る。社員たちには絶対に見せられない、海里の前だけの甘ったれな私だ。
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