1992人が本棚に入れています
本棚に追加
*
「わぁぁ、美しいです!南萌さま」
「さすが、奥様が見立てただけあるわぁ」
Aラインに大きく裾を広げる純白のウエディングドレス。ふわりと軽やかなレースにスパンコールの刺繍が丁寧に施されている。
オフショルダーから覗く鎖骨、胸元、二の腕が全て綺麗に映るように計算し尽くして調整されたこのドレスは、今日この日、私のためだけに用意された特注品だ。
「……素敵。試着の時よりもっと素敵になってる」
「そりゃあ、1年延期されましたからね。納期を気にしなくていいから、デザイナーさんがさらに手を加えたそうですよ」
「へぇ、海里の言うとおり、一年待つのも悪いことばかりじゃないのね」
「え?海里さんがなにか……?」
「あ、ううん!こっちの話!」
着替えを手伝ってくれる使用人は恋バナ大好きな人だ。
一年延期に文句を言う私を海里が慰めてくれた、なんてうっかり話した日には、この先3ヶ月はニマニマ擦り倒されるに違いない。
「ヘアメイクも完璧ですね。この世で一番美しいです!南萌さん」
「ふふ、ありがとう」
「小さな頃から見てきた南萌お嬢さまが、お嫁に行く日が来るなんて……うう」
「あーもう、泣かないで?泣くの早いよ!まだお式も始まってないのに……」
「でもぉ……」
ハンカチで目元を拭う彼女を笑って、改めて鏡で自分の姿を確認する。
ここ数ヶ月、この日のために仕上げてきただけあって、自分史上最高の出来栄えだ。
(……海里も、綺麗って思ってくれるかなぁ)
心の中でこっそり思う、乙女な私。
だって、今日までの努力は、会社関係者ばかりの参列者のためじゃなくて……海里に一番綺麗な私を見てもらうためにしてきたんだもん。
「可愛い」とか「綺麗」とか「好き」とか。そういう小っ恥ずかしい言葉は普段中々口にしない海里だけど、たまには自然に引き出したいじゃない?
最初のコメントを投稿しよう!