10.遅ればせな二人

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「新婦さま、準備ができましたら移動しましょう。新郎さまが教会でお待ちです」 「はい」 式場のスタッフに声をかけられて椅子から立ち上がる。大きく広がるドレスを両手で抱えながら新婦控室を後にした。 全てが親と会社に配慮して決められた結婚式の中で唯一私たちの希望を叶えたセレモニー……ファーストミート。 結婚式当日、別室で準備を終えた新郎新婦がお互いの姿を初めて見せ合うというものだ。 形式的で慌ただしい披露宴を前に、少しでも二人きりの時間を過ごしたい、とプランナーに海里が提案してくれたのだ。 会社のための結婚式とずっと喚いてきた私のために、少しでも二人のための何かをしようと考えてくれたのがすごく嬉しかったのをよく覚えてる。 「ファーストミート、楽しみですね」 「はい、って言っても毎日一緒にいるし、そこまで感動ないかもしれないですけど」 「いえいえ!皆さん、感動して泣かれる方もいるんですよ?」 「えぇ?本当ですか?」 プランナーと雑談しながら、海里が泣く姿を思い浮かべてみるがあまりに現実味がない。 なんだかんだ、「おー、似合うね」ってそんな褒めあいで終わるんだろうなって思いつつ……式前に二人でゆったりできるのは素直に嬉しい。 今から30分後には両親が来て、お式のリハーサルが始まる。 私たちに与えられた時間は30分しかないけれど、私にとっては今日の結婚式で一番楽しみな時間だった。 「それでは、こちらにお立ちください」 「はい」 式場見学に来て以来、教会の入り口に立つ。真っ白で可愛いチャペルも素敵だけど、格式高くて重厚なこの教会が気に入って式場を選んだことを思い出す。 二人のスタッフが両開きの扉のそれぞれの持ち手を掴み、「それでは開きます」と同時に開いていく。 正面に掲げられたステンドグラスが暖かく瞳を照らし、足元に続く赤いバージンロード。 「どうぞ中に」と促されて足を踏み入れれば、静かに扉が閉ざされた。
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