1995人が本棚に入れています
本棚に追加
思い出が蘇る。あの日の衝撃と悔しさと彼に近づきたいという強い欲。
まばゆいスポットライトに照らされて、何かが憑依したように堂々と鍵盤を駆け抜ける彼の両手。舞台袖から息を呑んで見つめたあの光景と、今目の前にいる彼がリンクする。
ああ、そうか……と、とある仮定を受け入れた時。ポッと胸の内に火が灯り、同時に目頭に熱が籠った。
不意に、ピアノに向かっていた海里の瞳がこちらに向く。
情熱的な瞳の熱にドクンと心臓が跳ね、息を呑んだ次の瞬間、彼の手はいつの間にか別の曲を奏でていた。
華麗なメドレー、巧みな編曲で繋がれたその曲は、今日の結婚式の中でも流れる私の好きなウェディングソングだった。
『この曲を弾けば思い出す、あなたと出会った瞬間のこと』
「……っ、」
ピアノの音色に突然混ざった海里の声に驚いて目を開く。
不器用で、気の利いた甘い言葉なんて普段全然言ってくれない海里が……、私のために歌ってる事実が信じられなかった。
『あの時からずっと綺麗だけど、今日はもっと、特別に綺麗だ』
決めていたようにこちらに向けられた視線。ずっと待っていた言葉は歌詞に込められ、しっかり私の心に届けられた。
『長い年月をかけて、二人の未来が重なった
遅れてやってきた僕らの運命は永遠に続いていく
最初で最後の恋だから、僕にはあなた以外いないから、ずっとそばにいてくれませんか?』
自然に涙が溢れる中、嗚咽で音が聞こえなくならないように必死に堪えるけれど、無理な努力で涙腺が崩壊する。
『数えきれないほどすれ違った、この愛は永遠に変わらない
大好きな笑顔も大好きな笑い声も、全部まとめて守るから
どんな未来が訪れようとも、あなたと生きていきたい』
既存の歌詞じゃない。海里から私へのオリジナルのメッセージ。
こんなのは反則だ。結婚式前なのに、せっかく仕上げてきたのに……涙でお化粧ぐしゃぐしゃだよ?
最初のコメントを投稿しよう!