10.遅ればせな二人

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初めて参加したピアノの発表会。 ちょっとした好奇心から始めたピアノだが、楽譜を覚えるのは大変だし、ただ弾くだけじゃなくて“ピアノで曲を表現しなさい”という先生の教えが理解できず、中々ピアノを好きになれなかった。 練習のとき、ミスなしで一曲弾き切れたのなんて2、3回。こんなに大きな会場で、上手く弾けるわけないと不安な私の前に現れた男の子。 舞台袖の控え席で大きなため息をついていた彼はてっきり私と同じように緊張しているのだろうと思っていたのに……私のひとつ前に演奏した彼は私のピアノへの概念を覆す、素晴らしい演奏で会場をどよめかせた。 同じ歳のはずなのに、こんなにも上手な男の子がいることに驚いて、彼のあと、悲惨な演奏をした自分が悔しくて。 私は1年間、苦手なピアノを必死に練習した。全ては翌年の同じコンクールであの男の子に勝って1位を取るため。 そのためならどんなことでもしてやろう、と。ピアノの先生と猛特訓を重ね、翌年のコンクールに参加した。 ……しかし、彼は翌年のコンクール会場には現れなかったのだ。 がっかりした。何のために私は1年間頑張ってきたのか、と。 結果的に1位を取れてすごく嬉しかったけれど、彼のいないコンクールで1位を取ったって意味がない気がして、その日を最後にきっぱりピアノを辞めてしまったのだった。 今の今まで、記憶の片隅に追いやられていた懐かしい記憶。私の負けず嫌いが本格化したスタートの記憶だ。 「ふふ、そっか……あの子は、海里だったんだね」 「覚えてんの?」 「うん、……私の闘争心に火をつけた衝撃の人だからね」 「……」
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