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私たちは初潮を迎える前に客を取らされた。女性になる前の未成熟な身体を飢えた獣の前に差し出したのは紛れもない生みの親であった。父は私たちを冷酷な瞳で見つめ、豚のように醜く太った指先で紙幣の数を確認していた。
エリザベス、クレア
自分の飯は自分で稼ぎない
女はいいぞー、股を開けば、その小振りな口を開けば、数時間で大金が稼げる
女に生んでくれたお母さんに感謝しなさい
父は母を組み敷いてそう笑った。糸切れのマリオネットのように父を迎えるだけの母。彼女はどう死んだのだろうか? 思い出せない。
寒かった。ただ寒くて……、ふたりで体を寄せ合って過ごしていた。ご飯もろくに食べられず、いつか終わるそう祈って、ふたりで手を繋いでいた。
だいじょーぶ、クレア!
あしたはいい日になるよ
ぜったいにいい日になる
つらいのは今だけ
……わたしとクレアはいつまでもいっしょよ
なんたって双子なんだから!
だから、なかないで
「…、っ……」
「おはよう、ベティ!」
屈託のない笑みがこちらに向いていた。あの頃とは打って変わった朗らかな笑み。口角を上げ、満面の笑顔を振り撒く彼女、クレアは私を一目見て、瞠目した。
「あら、泣いているの? 可哀想に。少し待っていて。今ティッシュを……
「くれ、あ……」
「はぁい。……思い出したのね。嬉しいわ、ベティ」
あの時からクレアは私をベティと呼んでいた。ご飯がドッグフードだった時も、殴られてほおを腫らした時も、隙間風と底冷えで手足が悴んだ時も、どんな時もクレアは私をベティと呼んだ。大事に大事に私の名を呼んだ。
「人間の脳みそは偉大でね。心的外傷や強いストレスに見舞われた場所、その出来事に関する記憶を部分的または完全に失わせることが出来るんだって。……ベティの脳みそもばぐっちゃったかな? 忘れられて寂しかった」
「……だ、から、脳みそを抜いたの?」
私はどうやら冷たい床に転がされられているようで、クレアに見下ろされる形になっていた。私の髪の毛を鷹揚な手付きで撫でるクレア。
あの時、クワンティコでクレアと対峙した時、足が動かなく一瞬で体を封じ込められてしまった。記憶を失うなんて捜査官失格だ。
……でも、おかげですべてを思い出してしまった。
「まァ、ベティが言うように、多少脳みそが気になったっていうのはあるけれど、でも別にそこまで意味なんてないわ。やりたかったからやっただけ」
「…、そんな、そんな事が許されると思っているの! クレア!」
「思っているわ。だってそう考えなければ、お父さんの説明がつかない。私たちが強いられたあの地獄の出来事に説明がつかないのよ」
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