10-17B

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 クレア・ウッドは擬態するのがうまかった。事件として処理されていた死体は死後、発見されるまで約1ヶ月近く期間が経っていた。その間、被害者たちのSNSアカウントは何者かによって恙なく稼働し、家賃や光熱費などのライフラインインフラも止まることはなかった。異変が見られない一人暮らしの女性たちは捜索届けを出されることなく、死体となって帰還した。  クレアにとって一卵性双生児の片割れになりかわることなど朝飯前だろう。私の人生を最もあっさりと強奪していく。チェスの駒を移動させるように必然だと笑いながら蹂躙していく。 「あなたが忙しいみたいだったからドミニクに付け入るのは簡単だったわ。恋人はもっと大切にすべきよ?」 「……クレア、」 「彼、子供を持ちたいと言っていたの」 「くれあ……」  クレアは私の弱々しく落とされる言葉を無視して、話を続ける。言われなくとも想像出来た。クレアを組み敷くドミニクを。私の名を呼びながらクレアに触れるドミニクを。クレアの膣を経由して吐き出された欲望を。 「これで終わりじゃないわよ、ベティ?」 「冗談やめて…」 「もう数時間後、女性の遺体が発見されるはずよ。死体と一緒に私のDNAが付着した残留物も見つかるはず。……言っている意味わかるわよね?」  わからない。わかるはずがない。  足音を鳴らし私の背後に忍び寄るクレアを私は直視できない。身の毛もよだつクレアの未来設計図。私はそれを直視できないが回避もできない。 「交換しましょ。私とエリザベス、ふたりの人生を」 「……っ、」 「私はあなたであなたは私。素敵な話でしょう?」  まるで子供がアイスキャンディを買ってもらった時の様な屈託ない笑みを浮かべるクレア。  足腰に力が入らない。逃げなければ。そう思うのに体が動かない。寧ろ震えてしまう。父を思い出す。クレアの瞳の奥にくっきりと居座る父。じわじわと破滅に追い込み、命を掌握する。そんな父を喰らったかのような眼前のクレアになす術がない。 「ただ、私のこの計画にはベティの助けが必要なの」 「……だれが、そんなこと」 「してもらう。じゃなければ、7人目8人目と殺人が続く。しかもあなたの愛する人に的を絞るわ」  クレアは鷹揚に私の前から立ち上がり、近くにあるテーブルからなにかを持って帰ってくる。私の前にぶち撒けられた写真の束。  パトリシアが子供とスーパーに買い物をしている姿。スタンリーが恋人と仲睦まじくコーヒーを飲んでいる姿。仕事中のヴィヴィアン。カーター、ボス、ドミニク。 「……エリザベス。あなたはこれからクレアとして生きるのよ。立派な犯罪者として」
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