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「……似てるねぇ」
「似てるどころか瓜二つだろ」
ヴィヴィアンに断りを入れてテイクアウトにしてもらった朝食。それを持ち、自らの持ち場に戻れば、痛いほどに多数の視線を感じた。鋭い同僚たちのそれに何事か、と思い眉根にシワを寄せていれば、パトリシアにジェスチャーで呼ばれ尋問室に向かった。尋問室の裏側、マジックミラーが隔てられた狭いそこは、事件の関係者で渋滞していた。そこには私のボス、ホセ特別捜査官の姿もある。
「どうしたの?」
「……重要参考人だ。自首して来た」
いつものようにパトリシアに訊いたはずが、ボスが答えてくれた。ボスのその言葉にマジックミラーを覗く。
ひとりの女性が見えた。私は思わず息を飲む。
「……どこの誰?」
「不明。ジェーン・ドゥ」
震える声で出た言葉をスタンリーが拾ってくれた。
ウェーブのかかった赤髪にこぼれ落ちそうなほど大きな黒色の瞳。──……鏡に映したように私にそっくりであった。いや、私そのものだ。
女性は美しく正しい姿勢で椅子に座り、目を伏し目がちにして静かに存在している。落ち着き払ったその姿はどこか畏怖さえ感じてしまうものだった。
「クレア・ウッドと名乗っている。一応訊くが、エリザベス、彼女に見覚えは?」
「……ありません」
ボスは柔らかな語気でそう私に訊いてくる。犯人を追い詰める時のような鋭い刃のようなものではないが、今の私は狐に摘まれたような不安感を抱いており、そのボスの言葉に恐れ慄いた。自他共に私と尋問室の女は似ているらしい。
「スタンリー、クレア・ウッドについてなにか情報は出てきたのか?」
「いえ、ボス。なにも。嘘をついているか、そもそも戸籍がないか…、とりあえず全くのまっさらです」
「指紋、DNAについては?」
「協力的ですが指先は焼いており、またDNAは現場から出てきたものと一致するものはありませんでした」
ボスは小さく溜め息を吐いた。
今回の猟奇的殺人はまさにサイコパスの仕業であり、IQも高いであろうと想像していた。一切の痕跡も残さず、皮膚を剥ぐという医療行為に近いこともできる。プロファイラーの力も借り、犯人は幼少期になんらかの虐待を受けた男性だという仮説を立てていたが、根底から崩れた。
「なんて言って自首してきた?」
「殺害された5人の女性の名前とどう殺されたかを的確に喋ったそうよ。また昨日のマギー・パーカーの脳みその話もしていたらしい、あれはメディアには伏せてある」
パトリシアが淡々とボスに伝えていく。謎は深まるばかりだ。
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