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夏休みというのものは人を変えるもので。
一ヶ月経つか経たないか、それくらいの短いブランクを経たクラスメイトたちは何かしら変化するものだ。
友達のヒロキだってそう。好きな映画をきっかけに仲良くなったこの男は、メガネが印象的でいつも俯いて過ごしているいわゆる「ド陰キャ」である。
……いや、正確に言えば「ド陰キャ」だったはずである。
「なぁ美嘉、ホームルーム早いんだろう?そろそろ戻ったら?」
「えぇー?いいじゃん、もうヒロキのクラスで授業受けるし」
「ダメに決まってるだろ!?」
「そんなの知らなーい♪」
…‥誰?
誰なのこの人は?
お前ヒロキか?1年a組の木村ヒロキなのか?この俺藤沢冬馬の友達の?
本当に?別人ではないですよね?
ヒロキは目を疑う程の変貌を遂げていた。メガネをコンタクトに変え、顔が隠れがちだった前髪をセットし、制服もカジュアルに着こなしてしまっている。
もちろん性格もだ。女子と目が合うなり、暴走しかけの火力発電所が如く赤面していた頃とは打って変わって、堂々と社交的に話すようになった。
もはや目じゃなく唇が合ってしまいそうな距離で。それは近すぎない?
そして極め付けはこの「美嘉」と呼ばれる存在。
ヒロキの膝の上に密着して座り、甘えたようにくつろいでしまっている。
お前に関しては本当に誰?
一応友達なんだけどマジで知らなかったんですけど?
「久しぶり、ヒロキ」
色々言いたいことはあるが、俺はヒロキに話しかけた。
いくら様変わりしたといっても。
久しぶりに友達との会話が楽しみだったのは変わりない。
「おう!久しぶり!終業式以来だね冬馬くん」
「そうだな……お前、結構その、イメチェンしたんだな?」
「うん、夏休み初日から色々あってね。」
「へえ、似合ってるじゃん。かっくいーね。」
普通その色々を話すだろ?というツッコミを抑えて、当たり障りのないように
俺は返答する。下手に突っ込んだら終わる。そんな嫌な予感が走っていたからだ。
「……その人は?」
「あ!美嘉です!ヒロキの彼女だよー」
なぜお前が答える!?……いや、落ち着け。焦るな、たかが雑談だ、何をそんなに焦っているんだ藤沢冬馬……!
「彼女じゃないっての!?えーと…この人は井杉美嘉。夏休みの時に仲良くなったんだ。」
「へえ」
彼女じゃない?????
思わず2文字で返してしまったが、それはおかしくないか?
付き合ってないの?その距離感で?
分からない。夏休み何があったんだよ?
一応一回遊んだよね?その時はあの陰キャフォームだったよね?
必死に遊んだ記憶を思い起こす最中、俺はフとある人物を思い出した。
「あっ、委員長」
「委員長?」
「委員長見てないな……って思ってさ。」
そう。俺の数少ない友達の一人、結城依里。又の名を委員長!
クラス委員の仕事を手伝った時から仲良くなって、軽口を叩き合う仲で…
夏休み、たまたまヒロキと一緒に映画を見に行ったのだ。
そういえばホームルームも近いのに姿を見ないぞ?
いつも一番乗りで教室入りしてるのに、急にどうした?
「ちょっと美嘉!?そんなにヒロキとくっつかないでよ!」
「え、そうかなー?”依里”が言うほどくっついてないと思うけどー?」
ん?今何つった?エリ?
むくれている美嘉が振り向いたその先には——
明らかに見慣れない清楚系美少女が立っていた。
「え?」
「おはよう、依里。今日もその髪型にしたんだね」
え、依里????この方が???
「い、委員長、です、か?」
「あ、おはよう冬馬、久しぶりだねー」
知らない女子が知ってる声で話しかけてきている。
脳がバグりそうな光景に耐えながら俺は——
「オハヨウ」
バカみたいな返事しかできなかった。
オハヨウて。それはやばいだろ。おい。IQ0か俺は。
いや、脳内反省会してる場合じゃない。
ヒロキに続き委員長まで変貌してしまった。
あの委員長までも、だ!
あのお下げでマルメガネで、ザ・委員長って感じだったあの依里までも!
その変貌ぶりにクラスの男子もチラチラと様子を窺っている。
そりゃそうだ。朝来たら突然知らん美少女が現れてんだからな。2人も。
それはヒロキも同じような感じらしく、遠くの方で女子がヒロキの話題で盛り上がっているのが聞こえてくる。
「やっぱり続けた方がいいんじゃない?似合ってるよ。」
「ん…そうかな、ヒロキがそういうなら続けて、みようかな。」
「何その会話ー!?めっちゃアオハルじゃん?」
おい、おいおい、なんだか学園モノのライトノベルみたいな会話が繰り広げられてるぞおい!
これ俺入っていいやつなのか?
これ俺入っていいやつなのか!?
よく分からない自問自答を繰り返しながら、会話の輪に入る機会を伺い続けていると、無情にもチャイムが鳴り響く。
「じゃね〜また昼休み!」
別のクラスらしい美嘉は彼女のクラスに戻り、委員長もそそくさと席に戻って、ホームルームが始まる。
特に変わっていなかった担任の話を聞きながら、俺はこれからの学校生活をどう過ごすか、心の中で頭を抱えたのであった。
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