『新薬』

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『新薬』

 ──とある研究室。  博士と助手の二人の男が話をする。  「この国は馬鹿が多い! 多すぎるんだ!」  「そうですね、博士。この国は他の国からも馬鹿にされてますもんね」  「いつまで経っても英語を話せる人は少ないままだし、有名大学に入る人の数も年々減少している。この国はもう終わりだ」  「一体どうすれば……」  「そこで、この新薬『L18-EX』の出番だ!」  「そ、それは!?」  「記憶力が上がる薬だ。やっと最近開発に成功できた!」  「もしかして、博士が三十年以上前から独自で研究していたあの薬ですか?」  「その通り。サバ、マグロなどの青魚に含まれるDHA及びEPAと、脳の記憶力に良いとされるヤマブシタケなどの成分を混ぜた新薬だ。これを人間が飲めばたちまち記憶力が上々する!」  「おお! さすが博士! お一人でそこまで凄い薬を作るとは!」  「この新薬は錠剤となっている。飲むと半永久的に『見たもの』『聞いたもの』が記憶に定着するようになっておる。これでこの国も有名大学に行く若者が増えるはずだ!」  「では早速、『治験』と名して人を集めましょう!」  「そうだな。まずは十代の若い人間を百人ほど集めてみるか。そして三ヶ月ほどの期間を与え実験してみよう! 私は別の新薬の開発があって忙しいから、君に『L18-EX』の実験を任せる!」  「了解しました!」  ──三ヶ月後  「おい、助手! 約束の期間になったぞ! 早速、新薬を試した百人に東京大学の入試問題のテストをやらせようと思う! 皆を集めてきてくれ!」  「それが……無理です」  「なぜだ?」    「百人とも現在、入院中です……」  「まさか、新薬に副作用があったのか?」  「いえ、確かに新薬を飲ませてから彼らの記憶力は上がりました。全員中学、高校の教科書や百科事典などを全て丸暗記できるほど賢くなりました」  「じゃあ、なぜ病院に?」  「実は新薬の効果でこの三ヶ月の間の嫌な記憶も忘れなくなり、全員PTSDになってメンタルが壊れてしまい、精神科の病院に入院しています……」
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