『ミニマリスト』

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『ミニマリスト』

 ──とあるマンション。二人の若い夫婦が部屋にいた。  「あなた、その漫画いらないから捨てて!」   「そうだな。もう読まなくなったし……捨てるか」  男はボロボロの漫画雑誌を紐で結ぶ。  「あと、その洋服ももう着ないから。買い取り業者に持ってってね」  「了解了解」  男は洋服を綺麗にたたみ、紙袋に入れる。  「あなた、机の引き出しの中にあるトレーディングカードいつまで持ってるつもり? 早く捨てて!」  「駄目だよ! あれは学生の頃に集めてた大切なものなんだ。俺の青春なんだよ」  「どうせ今はもう遊ばないんでしょう? なら、さっさと捨てなさいよ!」  男はしぶしぶカードをゴミ袋に入れた。  「あとはそうね……あのクマのぬいぐるみもいらないわ。邪魔だから処分して」  「え!? あれはお前と初デートの時にUFOキャッチャーで手に入れた思い出のぬいぐるみだろ?」  「いいの! 処分処分!」  男はさみしい表情でぬいぐるみをゴミ袋に入れる。  「はー、疲れたわ。でも、だんだんスッキリしてきたわね!」  「ちょっと捨てすぎな気もするんだが……」  「なに言ってんのよ! これからはミニマリストの時代なの! 断捨離することはメンタルにも良いって本に書いてあったんだから!」  「もー、すぐ影響受けるんだから」  「あ! あの写真立てもいらないわ。捨てて」  「あれは結婚式で撮った大事な思い出だぞ! 捨てられないよ!」  「写真なんてスマホに保存してあるでしょ?」  「そうだけど……」  「だったらいいじゃない! 捨てて!」  男は写真立てをゴミ袋に入れる。  「あ! その判子!」  「え!? これは駄目だよ! 判子屋で作った高いやつなんだから!」  「それは捨てないで! 必要なんだから!」  「あー、よかったよかった」  男はほっと胸をなでおろす。  「あ! そのボールペン!」  「え!? これは限定品のやつだから駄目だよ!」  「それも必要だから捨てないで!」  「よかった。捨てられるかと思った……」  ──そして、数時間後。  「ふー、やっと片付づいたわね!」  「本当に物が無くなったな」  「スッキリしてよかったじゃない!」  「でも少し淋しいな」  「まだ断捨離終わりじゃないわよ」  「へ?」  女は緑色の用紙を取り出す。  「あとはこの紙に名前書いて、判を押して」  「まさか……」  「てへへ」
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