『アーシング』

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『アーシング』

 ベンチに荷物を置く。  軽くストレッチをする。  昨日の大雨が嘘かのように今日は晴れている。  ストレッチを数分やる。ふと腕時計を見る。午前九時。最適な時間だ。  長袖シャツをまくる。  長ズボンもついでにまくる。  陽の光を直接肌に当てるためだ。  陽の光を三十分以上身体に当てるのが、私の日課になった。三ヶ月前までは不規則な生活をしていた私だが、今はもう規則正しい生活になった。これも朝日をちゃんと浴びるようになったからだろう。  公園を見渡すとジョギング中の人や、犬と散歩している人、グランドゴルフの準備をしている高齢者の団体、追いかけっこをしている子供たちなどがいた。  今日は日曜日だ。いつもより人が多い。  だが、そんなことは気にも止めない。  私は右足から靴を脱ぐ。そして次は左。そのあと、靴下も脱ぐ。  芝生の上は少しチクチクするが、それも歩いていれば徐々に慣れてくる。小石や木の枝を踏まないよう気をつけながら、ゆっくりと歩く。  これが言わゆる『アーシング』。  素足で地面を歩く、手で直接土や木に触る、川や海に入るなど、直に自然と触れ合うことで身体の中に溜まっている電気を外に放出し、自律神経や副交感神経を整えるのだ。  私たち人間は日頃スマホやパソコンなどにずっと触れている。だから、電気が身体に溜まりやすいのだ。  健康オタクの私は早速このアーシングを取り入れた。私はこの近所の大きな公園で毎日一人黙々とアーシングをやっている。アーシングを始めてから安眠できるようになったし、イライラすることも減った。  私は素足で芝生の上を歩く。  時々立ち止まり、目をつむり深く深呼吸をする。  鳥のさえずりが心地よく聞こえる。  風でなびく木々の音がヒーリングになる。  目をつむりながら少し歩く。  まるで自分が地球と一体化している気分だ。  目を閉じたまま、数歩歩いたら泥を踏んでしまった。    だが、気にしない。泥も『自然の一部』なのだ。これもアーシングだ。私はあえて泥を何度も踏みつけた。  子供たちの笑い声が耳に入る。まるで自分が少年時代に戻った錯覚を覚える。  今日も私は目を閉じたまま『今日と言う素晴らしい日を送れた』ことを心の中で感謝する。  ──一方、とある親子連れ。  「ねえねえママ、あの人。犬のウンチめっちゃ踏んで……」  「コラ!」
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