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『ひったくり』
俺はやる。
今日、俺はやる。
絶対に、やる。
これは俺が悪いわけじゃない。
社会が悪いんだ。
俺みたいな前科者は仕事につくのが中々難しい。
どれくらい難しいかというと、中卒のやつがまともな仕事につくくらい難しい。
いや、それ以上に難しいかもしれない。
俺は闇バイトで金庫泥棒をした。
白昼堂々と。
その作業中、お店の警報が鳴り急いで逃げたが、時すでに遅し。あっという間にパトカーが来て捕まってしまった。
抵抗しようと若い女警察官に掴みかかったが、日頃から柔道で鍛えてるのか、気がついたら俺が地面に倒れていた。
若い女警察官に取り押さえられるさまは、通行人から見たらかなり滑稽だったであろう。ママチャリを押している高校生たちに笑われてしまった。
お前ら、覚えてろよ。顔覚えたからな。必ず見つけてやるからな。
まあ、そんなことはどうでもいい。俺は六年の刑期を終え、なんとかシャバに出ることができた。
が、問題はここから。
仕事がない。履歴書を書いて送っても門前払いされる。今は情報の時代。少しググれば俺のニュース記事が出てくる。
『前科あり』という肩書きがかなり足枷になっている。まるで呪いだ。
俺はまた犯罪に走ることにした。じゃないと生きていけない。
これは国が悪い。
国が元犯罪者のその後の人生をちゃんとケアしないからだ。たがら俺みたいな元犯罪者が再犯をするんだ。国はもっと考えたほうがいい。
まあ、そんなことも今となっちゃ、もうどうでもいい。
俺は今からあのパグと散歩中のおばちゃんを襲う。いや、襲うという言いかたは語弊があるな。あのおばちゃんが持っている手提げバッグを盗る。おばちゃんには悪いが恨むなら俺みたいな人間をちゃんとケアしない『国』を恨んでくれ。
原付きのハンドルを握る。
怪しまれない程度にゆっくり近づく。狙いはバッグにさだめるが、視線は前方だ。
おばちゃんは愛犬のパグに夢中なのか、こちらに気づいていない様子だ。
今だ!
俺は原付きを急発進させ、手提げバッグを掴み取った。おばちゃんが驚いた表情を見せる。俺は原付きのスピードを上げその場を後を立ち去った。
完璧だ。
サングラスにマスクもしてるから顔がバレることはほぼない。おばちゃんには悪いが、生きていくためだ。許してくれ。
俺は少し罪悪感にとらわれながらも、原付きを走らせ都会に姿を消した。
──翌日。
「ニュースです。昨日午後、都内で散歩中の女性がひったくりの被害にあわれたようです。被害にあわれた女性に当時の状況を聞いてみました」
「もういきなりですよ! あっと言う間にバッグが取られたんです! 私もトトちゃんもビックリしましたよ!」
「え? 被害額? バッグにはトトちゃんのウンチしか入ってませんが……」
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