『呪わば穴二つ』

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『呪わば穴二つ』

 人気のない夜の神社。  不気味にそびえ立つ大きな木の前に一人の女が立っていた。女の右手には藁人形が握られていた。女はぶつぶつと独り言を話す。  「あの憎い女の顔写真も貼った。あの女の髪の毛もちゃんと藁に入れた。準備は整ったわ。あはははははは!」  女の不気味で甲高い笑い声が静寂した闇に響き渡る。女は藁人形に貼られている女性の顔写真を見つめこう言った。 「明日のコンクールは私が優勝して賞金を取るの。あなたには悪いけど、辞退してもらうわ」  女は不気味な笑みを浮かべ、持っていた藁人形を強く握る。  「あなたが全て悪いのよ。私よりもピアノの演奏が上手いうえに容姿まで端麗なんだから。しかも、私が密かに狙っていた指揮者と交際していたなんて……絶対に許せない!」  女は鞄から小さな釘を一本と、年季の入ったトンカチを取り出す。そして藁人形を軽く木に打ち付けて固定する。さらに、今度は鞄から長い釘を取り出し不気味に笑いながらこう言った。  「あとは強い恨みを込めてこの釘を人形に打ち付けるのね。さぁ……覚悟しなさい!」  女は渾身の力を込めて、釘に向かってトンカチを振りかぶった。    次の日。とある会場ではピアノコンクールが開かれていた。数々のピアニストたちが全国から集まり、自分たちの演奏を披露する。  そして、その中から優勝に輝いたのは、なんとあの藁人形の写真の女性だった。会場の裏では関係者の二人の男がこう話す。  「やっぱり、あの子が優勝したか」  「そうですね。演奏している姿も、とても美しかった」  「なに鼻の下を伸ばしてるんだ。あ、それより今日一人だけ欠席した子がいただろ?」  「え?誰です?」  「ほら、今日優勝した子と不仲説が流れていたあの女だよ。一体どうしたんだ?」  「あ、その人なら今日手術で来れなかったみたいですよ。なんでも人差し指と中指が粉砕骨折したみたいで……」
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