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『河童』
──とある川沿い。
一人のホームレスの男が弁当を食べていた。
すると、一人の小学生の男の子が自転車に乗り現れる。
「おっちゃん! 久しぶり!」
「おお、小僧! 元気にしとったか!?」
「スーパー元気だよ! あれ? それ……コンビニのゴミ置き場で拾った弁当?」
「そうそう。消費期限過ぎてるけど、まだいけるよ」
「バッチいな、相変わらず。それより、おっちゃん。凄いニュースがあるんだよ!」
「何だ? またお笑い芸人の女遊びが暴露されて炎上しているのか?」
「違えよ! 最近、この辺りの川に河童が現れたんだよ!」
「河童!?」
「そうそう。目撃者もたくさんいるみたい。昨日、ローカルのテレビでも特集されてたよ!」
「馬鹿馬鹿しいな。それより、わしにビールか何か差し入れを持ってきてくれよ」
「めんどくさい。それに僕、未成年だからお酒買えないし。じゃなくて、もし生きた河童を捕獲できたら番組が五百万くれるらしいよ!」
「五百万!? 本当か!?」
「だから僕、この辺の川を手当たり次第調べてるんだ。おっちゃん何かわかったら教えてね。そいじゃ!」
少年が去った後、ホームレスの男は腕組みしながら考える。
「五百万か。よし、俺が先に見つけてやる。小僧には悪いが、もう野宿生活はうんざりだからな」
ホームレスは川沿いを手当たり次第調べる。橋の下、草むらの中、岩陰を隅々まで探す。だが、何処にも河童の姿はない。ホームレスは仕方なく、別のホームレスたちに聞き込みを始める。
「この辺に河童見なかったか?」
「いや、見てねえな」
「そうか」
「ていうか、あんた。俺たちよりも長くこの辺に住んでいるのに目撃しなかったのか?」
「いや、小僧に言われるまで河童の存在も知らなかったんだよ」
「河童なんていないって。探すだけエネルギーの無駄だよ。まだ空き缶探してるほうが金になると思うよ」
ホームレスの男は言われるがままに捜索を断念する。そして、気がついたら外は日が落ちていた。
「馬鹿らしい。やめだやめだ」
ホームレスの男は愚痴をこぼしながら自分が住んでいるベンチまで戻る。
「河童を探してたら汗で身体がベトベトだ」
ホームレスの男は衣服を脱ぎ、川に入る。冷たい川の水にお構いなく身体を擦り始めた。
「うー、寒い寒い。それに頭もいつの間にか結構ハゲてきたし、ホームレス生活は良いこと何一つないな」
男に虚しさが押し寄せる。それに負け時と男は大好きな演歌を歌い始めた。
「また〜恋してる〜春になったら〜会いましょう〜」
ホームレスの男の熱唱は一時間近くまで続く。
──そして翌日
「おっちゃん! おっちゃん! 大変だよ!」
「何だ小僧。またお前か。いい加減にしろよ、河童なんかいなかったぞ」
「河童がまた現れたんだって!」
「は? いつだよ?」
「昨日の夜だよ。目撃したサラリーマンによると全裸で身体洗いながら演歌を熱唱してたんだって……」
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