『足りないもの』

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『足りないもの』

 ──とある大きな会場。  そこではキックボクシングの試合が行われていた。  一人は背丈が二メートルある選手。もう一方は背丈が一メートルの選手。  二メートルの選手はとても冷静に動いているのに対し、一メートルの選手は自分のパンチやローキックが上手く当たらず、カンカンに苛立ちながら試合をしていた。  一メートルの選手は感情を剥き出しにしながら二メートルの選手に対し、パンチのラッシュを繰り出す。  しかし、二メートルの選手は冷静に全ての攻撃をかわし、一メートルの選手にカウンターで右フックを食らわした。  一メートルの選手が仕返しにと突っ込むも、二メートルの選手の膝蹴りが一メートルの選手の顔面にまともに入る。  一メートルの選手はそのまま泡を吹いてリングに倒れ動かなくなり、二メートルの選手のKO勝ちとなり試合は終了した。  試合のあと、控室では身体がボロボロの一メートルの選手が、自分に勝った二メートルの選手に質問する。  「俺には何が足りなかったの?パワー?スピード?それとも技術?」  二メートルの選手はしばらく黙ったあと、ゆっくり口を開きこう言った。  「‥‥‥慎重さが足りないんだよ」
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