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毎朝、昇降口で名も知らぬ金髪ポニーテールの一年生を見てから教室へ向かうのが日課になってから半年が過ぎたころ、文化祭が開催された。
芸術に力を入れている学校なだけあって文化祭の出し物はどの科も趣向を凝らした造りになっていて、展示物、舞台表現、演奏、どれも見ごたえがある。
現に、俺もこの文化祭を見て受験を決めた。
俺は美術科で油彩を専攻していたが、もの造りにも興味があり造形部に属していた。そして部活の展示を準備していたときのこと、雷に打たれるような衝撃をうけたのだ。
5片の羽根が縦に連なっている全長30センチほどの立体造形物。タイトルは『動』。
それは驚くほどまるで今まさに上からひらひら落ちているかのように見える。
俺ははじかれたように作品の前に置かれていた作者プレートを手に取った。
『造形部1年 井土 瞬』
見たことも聞いたこともない名前だ。俺は手近にいた佐々木を捕まえて聞いた。
「なあ、井土ってどんなやつ?」
「造形専攻のやつらしいよ。さすがだよな」
「……これ、粘土だな」
「そうなんだよ。粘土でこれは無いわ。まじで浮いてるみたい。作業してるところ見てみたいよな」
その時の俺は、毎朝見ている金髪と井土を微塵も繋げて考えなかったが、同じ造形部。文化祭の当番決めの場ですぐに事実を知ることになった。
あの瞬間は鮮明に覚えている。ありえないほど井土への興味が湧いてきた。とめどなく、どんどん膨らみ続けて、逆にもう、井土を直視できない。
俺は、絶対に、井土が作業している部屋には立ち入らなかった。
それでも毎朝、井土をひと目見ることはやめなかった。
そしてあの作品『動』の写真は日に何度も見かえす。自分でもどんな感情なのかはわからなかったが、ただ一つ言えることは、同じ芸術を志す者として、少なからず嫉妬があったのは確かだ。
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