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翌年、一方的に想いを余らせた俺は、最後になる文化祭の出展に一年間のすべてをぶつけた。
自分の専門分野である油彩で。
まわりには、造形部なのに何事か、と言われたが、立体では絶対に井土のお眼鏡にはかなわない。
だから俺は『静』というタイトルで羽根の絵を描いた。井土の羽根が着地したところを想像して。
イメージはあったがどこに着地したかはわからない方がいい。ただ、音もなくふんわりと底にたどり着いて動かなくなった様を表現した。井土が見てくれることだけを願いーー。
井土が見てくれたかどうかはわからない。いや、さすがに見ただろうけど、描いておいてなんだが、どう思ったかは怖すぎて知りたくない。
でも、俺は満足だった。素直に感想は伝えられなかったが、井土の作品を見た衝撃と感動を一筆ごとに塗り込めたから悔いはない。
ようやく解放された気がした。井土への興味がなくなったわけではないが、ひとまず想いを吐き出したことで吹っ切れた俺はそれからの日々、受験に集中できた。
こうしてすべて青春の想い出になるはずだったのに。間違いが起こってしまった。
あの日、悪友の佐々木が呼び止めてしまったのだ。井土を。
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