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「井土、メシ、行かねぇ?」
「……いや。俺、友達と行くんで」
「そっか。じゃ、また今度な」
俺は追いかけて、後ろから佐々木に飛びついていた。……わりと強めに。
それなのに佐々木ときたら、普通に話かけやがって。俺は大概、変なヤツのようだったにちがいない。しかも、言うに事を欠いて、俺にひどい話のふりかたをした。
「あ、井土。こいつが話したいってさ」
「……」
井土はあきらかに警戒していた。俺はそんな井土を見て「井土って、こんな感じなんだ」と、分析していた。
派手な見た目と違って、結構、人見知りするのかもしれない。そう思うと、よけいに申し訳なくなる。
せめてちゃんと話そうと、俺は腹をくくった。
そして簡潔に、少しだけ井土の作品の話をするつもりだったのだが。
「俺、ずっと好きだったんだ。お前が」
「……」
井土の友達が、両手で口元をおさえた。通りすがりの奴らも振り向き、立ち止まる。
簡潔に伝えようとするあまりに色々説明を省いてしまったのだろうか?
自分の口から放たれた言葉が、自分でも信じられなかった。
「……え」
「あ、いや! お前の――いや! 井土くん作品が! ほら、文化祭で展示されてた『動』ってタイトルの」
「……ああ」
あれはおかしかった。困惑した井土の表情たるや、俺はもう二度とアイツの前に姿を見せないと誓った。
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