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第二話 忘れられない夢と夢
物心ついた時から繰り返し見る夢がある。
真っ赤な炎と、冷たい視線、そして自分を呼ぶ誰か。
本能的にこれは大事な事なんだと感じるが、起きた時に覚えているのは少しの疲労感と悲しさだけ。
そんな気持ちも朝の身支度を済ませて朝ごはんを食べてしまえば忘れてしまう。結局は「またか。」で終わる何の意味もない夢だと思っていた。
そんな何度も見た夢を保健室のベッドで見てしまいぐるぐると倦怠感を味わっていると、ベッドを囲むカーテンが開き養護教諭の顔が覗いた。
「亜久里さん、体調はどう?お友達来てるけど。」
「大丈夫です、ありがとうございました。」
結局あのストーカーからの逃走の後は普通に学校に辿り着けたが、色々考えすぎてしまい気分が悪くなり、三時間目の授業が終わった後で保健室に行き一時間分休ませて貰った。
保健室に来た時には真っ青だと言われた顔色も「午後の授業も出れるよ。」と言われるまでに回復し心配して様子を見にきてくれた友達の真次夢と教室に戻った。
「お昼ご飯は食べられそう?」
「うん、大丈夫。ありがとう、夢。」
教室の隅で机を向かい合わせにしてお弁当を広げた。お互いに食事の用意ができた事を確認すると手を合わせて食事を始める。
「で、どうしたの?風邪?」
「ううん、そういうのじゃないんだけど。なんていうか、説明しにくい……。」
「えー何それ。めっちゃ気になるじゃん!寝不足とかでもないんでしょ?でもめっちゃ顔色悪かったしなぁ。」
「そんなに?」
「うん。」
ゾンビみたいだったと夢が自分の首をかるく絞めるフリをして舌をだした。誇張して私のモノマネをするのでそれがおかしくて思わず吹き出したてしまった。吹き出した私に夢がむっと唇を尖らせる。
「いや、真面目に心配したんだからね。」
「それはありがとうだけど。」
「そんな私には言いにくい事?」
「言いにくいとも違うけど、実は……。」
夢に今朝の出来事を話した。警察の格好をした変な男にプロポーズをされて、更にこの男は自分の個人的な情報を知っていた事。そしてそれに対して悩みすぎて体調が悪くなってしまった事。
「え、何それ。まじ?」
「まじ。」
話を聞きながら最初は揶揄していた夢も、話が進んで行くにつれて段々と顔色が悪くなっていく。大きなため息をつくと文字通り頭を両手で抱えた。
「そりゃ朝からそんな事があれば具合も悪くなるよ。そりゃそうだよ。大変だったね。」
席から立ち上がった夢が私の後ろに回ってよしよしと頭を撫でて労ってくれる。傷ついていた心に友達のありがたみをが染み渡る。
「それにしてもあれじゃない?その人本当に警察官なのかな?」
「でも手帳持ってたよ?」
「コスプレとかの可能性もあるわけじゃん。しかも姫とか言ってたんでしょ、絶対やばい人じゃん。」
「それは、確かに……。」
目から鱗が落ちた。
自分を警察官だと思い込んでいる不審者だとしたらあの奇行にも納得がいく。一市民としてもストーカー行為をする警察官がいると信じたくないのもあるが。
「第二公園前交番でしょ、放課後行ってみようよ!」
「でも……。」
「嘘だったら被害届出せるしさ!行くだけいってみようよ。」
「ちょっと考えてもいい?……やっぱりちょっと怖くて……。」
自分を抱きしめる夢の手に自分の手を重ねた。再びあの男に会う事を考えると落ち着いていた恐怖が戻って来た。かすかに震えている私の手を夢が優しく握りしめてくれた。
「大丈夫大丈夫、私も急にごめんね。でも私は絶対アリスの味方だから!」
「ありがとう。大好き。」
「私もアリス大好き!」
顔をあげると夢と目が合い自然と二人で笑いあう、しかしそんな安らいだ時間はドアの開く音で終わった。
「亜久里まだいるじゃん。帰ればよかったのに。」
「本当だ、病気移されても困るんだけど!」
入って来たのは同じクラスの同級生二人組、|須藤と葛西だった。二人とも派手な化粧をして制服を着崩している。そして何より私はこの二人が嫌いで、この二人も私の事を嫌っている。私が保健室に休みに行った後、そのまま早退したと期待してたらしい二人は視界に入った私を見てわざとらしく会話を始めた。
「何、あいつら。本当品がない。」
「いいよ。ほっといて。」
今すぐにでも噛みつきに行こうとする夢を抑える。
ちなみにクラスに夢以外の味方はいない、かと言ってこの二人の様にはっきり敵でもないけど。酷い事を二人に言われたからとしても怒ってくれたり言い返すのは夢だけ。理由は至極簡単で、この二人が私を嫌っている理由に夢以外のクラスメイトは少なからず同調しているからなのを私は知っている。
「私放課後デートあるのに白髪が移っちゃったらどうしよう!」
「その時は慰謝料請求しなよ!」
私に対する軽口でぎゃははと大口を開けて二人で笑う。
この通り私が嫌われている理由は私の真っ白い髪の毛が理由。アルビノ体質というわけでもないのに何故か私の体毛は髪の毛や眉毛などすべて生まれつき真っ白なのだ。勿論幼少期に何度も病院で診察を受けてこれが唯の体質だという事は分かっているし、ましてや他人に感染するなどはありえない。
それでも奇異の目で見られる事は人生の中で珍しくはない事だし、たった一八年ぽっち生きただけでも変わった姿の自分を他人が疎ましく思ってもしょうがないと思える様になった。
「あの二人はいつか絶対後悔させる。」
「いいってば、いつもの事じゃん。それにあの二人が白髪になったらただのお婆ちゃんでしょ。」
「確かに!アリスみたいに可愛くなれないもんね!」
夢が噴き出すと二人の視線がきつくなった。その視線を無視して「アリスが世界一可愛い♡」と猫可愛がりする夢にもみくちゃにされていると五時間目の担当教師が教室に入って来て次の授業の準備を始める様に教室中に声をかける。
その声でこちらも向こうもとりあえずは解散となり、授業の支度を始める。
そういえば何か大事な事を忘れている様な。
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