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男の頭の中に少女の顔が浮かぶ。
十四歳になる娘だ。
「……娘を迎えに車に乗って、それから」
そこで、思考が途切れる。
車に乗っていたはずだ。間違いない。
しかし、水の中を流れてきたような気もする。
終着駅かどうかは知らないが、老人の一人が言うことは本当のようで駅のホームにいた。
周りを見渡せば、霧が立ち込めている。
そこには三人しかいなかった。
老人たちは、姿形だけでなく声もよく似ていた。
老人の一人の身体のラインは、やや丸みをおびており柔らかい。
髪は申しわけ程度にしかはえていないが、女性に見えなくもなかった。
「ここはどこだ?」
男の問いかけに、二人は黙って駅名標を指差す。
それを見れば『三途の川』と記されていた。
夢を見ているのだろうか。
ありきたりな発想ではあるが、あまりにも現実離れをしている今を表すには、夢として片づけるのが一番いい方法に思えた。
「命の終着駅ではあるが、おまえさんはこれからまた次の駅を目指さねばならない」
「どうやって?」
夢だとわかればなんてことはない。
男は冷静に尋ねた。
「今から服を脱いでもらう。おい」
「はいはい」
老人の一人、女性の方が男の服に手をかける。
皺だらけの手を反射的に振り払った。
何か形容しがたい嫌悪が走ったからだ。
「あんた、何をするんだよ!」
「罪の重さをはかろうとしているだけさね」
「脱がせる必要はないだろう!」
老人たちは顔を見合わせる。
そして、無言で指差す。
今まで何故気づかなかったのだろう。
そこには存在感たっぷりな大木がはえていた。
ホーム上で上へ上へと力強く伸びている。
天辺は天井を突き破っており見えない。
電車を待つものの為に置かれたイスには、根が絡まっていた。
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