序章

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 少年は少し離れた所で嘶いた栗毛の馬に、待たせてごめん、それから重たいけどごめんと小さく囁いた後で鞍を乗せ、鞍の右脇に工具袋の一つを緩衝材でくるんで、さらにその上から布を幾重にも巻いたものを括り付ける。  その後、左脇に少女からもらった数日分の固形食料と水筒を同じように括り付けた。  最後に少年自身が背に飛び乗ると、少女に向かって満面の笑みを浮かべる。 「……大丈夫。向こうに着いたらたくさん色々覚えて、便利道具を発明してみせるよ! 全面的に機械に頼るんじゃなくて、皆の作業の負担を少し減らせるような、支えになるようなもの。なるべく自然の素材を使って、弊害を抑えた……ここのやり方に合った、何かをさ」 「……」 「あ、そうだ。もし長い休みがあったら帰るけど、お土産何がいい?」 「……」  少女は少年の問いには答えぬまま微笑むと、眩しそうに眺めながら、馬上に向かって小さな包みを手渡した。  少年が薄い紙で包んであるそれを開けると、少女の瞳と同色の石が先端に取り付けられているペンダントが顔を出す。  淡くほのかな藍の光が、静かに灯っていた。  金髪をふわりと揺らして、少年はそれを首にかける。  空の青のような瞳が海の青に染まって、再び、空の青へと── 「危なっかしいんだから、道中気をつけて」 「アディ……ありがと」 「……お土産には向こうでの話をお願い。リオのドジ話をたくさん期待してるから」  ……笑い声が、響いて。  嘶きと、走り去る音。  踵を返し、集落の中へと歩む、微かな足音。  二つの音が左右に分かれて消えていく。  旅立ちを祝うかのような快晴の空に、時を追う毎に一つ、二つ、雲が浮かび始めて──  数刻後、それは空一面を覆い尽くしていた。  ―序章第1幕・終―
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