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「彼氏、作ればいいじゃん」
その夜、久し振りに会ったエミに仕事の愚痴を溢したら、直球でそんな言葉が返ってきた。
久し振りと言っても、約一ヶ月振りくらい。
高校を卒業後も、エミとはこうして、まあまあの頻度で遊んだり飲みに行ったりしている。
ちなみにエミは今、美容師の仕事をしている。
なかなか大変のようだけど、まさに〝やりたいこと〟を仕事にしているところが、尊敬と同時に少し羨ましくもある。
そんなエミが言うには〝彼氏を作ったら毎日にメリハリが出て、仕事も意欲的になるのでは?〟とのこと。
まあ、エミは高校生の時から相変わらず恋バナに興味はなさそうだし、適当に言っているだけのような気もする。
「彼氏かぁ……」
じゃあ作るわ、と簡単に言えるほど、私だって大して恋愛体質ってわけではない。
短大生の時に、初めて男の子と付き合い始めた時期があった。
同じクラスだった男の子で、何度か話すうちにデートに誘われ、三回目のデートで告白された。
〝とりあえず友達の延長からでいいから〟と彼から言われたのでお付き合いをしてみたけれど、やはり友達感がいつまでも拭えず、そんな私に不信感を抱いたのか、もしくは飽きたのか、結局は浮気されてフラれた。
「次に付き合うなら、自分から物凄く好きになった人がいいなー」
そんなことをエミに伝えると……。
「ああ、確か高校生の時に物凄く好きだった先輩いたよね? 確か、御崎先輩だっけ?」
と聞かれる。
「う、うん……」
私は思わず動揺しそうになりながらも、なんとか平静を装ってそう答えた。
御崎先輩とは、当たり前だけど彼が高校を卒業してから一度も会っていない。
SNSもやっていないみたいだし、私から彼の様子を探る術はない。
ただ、たまに聞く噂話では、予定通り進学した大学で楽しく生活しているとか。
ーーってことは、七年前の事件に先輩はやっぱりかかわってないってことだよね?
と、今でも必死に言い聞かせてしまう自分がいる。
もう誰もーーエミも、他の友達も、七年前の事件のことを口にする人なんて周りにいないのに……。
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